miss you D2前編 | ナノ
分かっていた、他の人に逃げてもそれはただの捌け口にはなるかもしれない。
しかし、改めて思い知るのだ、すやすやと眠る海の寝顔にまた戻ってきて。
翌朝、帰ってくるときれいに片づけられた部屋にはやはり海は居なかった。
当たり前か、女に振られるのは慣れているが、だが、久々に本気になりそうなほどにロニは海のことを気に入っていた。
今までいろんな女性と知り合ってきたが、後にも先にも海のようなどこか、強がっていた横顔も、悲しそうに笑う笑顔を見たことがなかった、確かにカイルの母親、ルーティやフィリアやマリーもそれぞれ違ったタイプの美人だが海はそれとはまた違う何かを感じた、海から醸し出す雰囲気、どこか扇状的なはかない色気、
アクアヴェイルの人達のようなしとやかな雰囲気、顔立ちもこの世界の顔立ちの人とはどこか違って見えた。
「行っちまったか…」
テーブルの上に置かれたガルドに、海の書いた手紙には控えめに書かれたお礼の言葉だった。
この三週間弱、本当に楽しかった。
ただ、それだけだった。
もし、リオンではなく、ロニと出会っていたら、きっと、
***
逢いたくて 逢いたくて…
どうしようもないくらい 恋い焦がれた。
「…そうか、エルレイン… あの女は一体何が目的で僕やバルバトスを蘇らせ……スタンを…殺したんだ?」
雨のダリルシェイド。もう自分の見慣れた町並みは其処にはない。 だから、足取りは遠ざかる。この場所に立つと、自分が犯した罪を…嫌でも痛感するから。
しかし、海をここまで弱らせてしまったのは 紛れもなく自分。今でも、信じられない、幻のようだった、再会できた喜びを噛みしめたいが、ベッドで ぐったりと疲れ切った様に眠る今の海ではそれすらもままならないだろう…
三年という長い年月、しかし、リオンにはまだ海との別れが鮮明に残っているのだ。
それなのに、海の中で、自分との別れはもう、三年という空白の中にある。
腰まで伸びた海の髪がその年月を教えていた。
緩やかに巻かれたてっぺんで結い上げた明るい色素の髪、その中で気になったのは、海の太股に巻かれた2対の奇妙な形をした剣のような指揮棒のような武器だった。
それが嘗て刃を交え、瓦礫の中に消えた男の投射されたソーディアンだと、シャルティエには知る余地もないが。
「ずるいですよ!貴方は!逃げるんですか!!海を殺しておいてー!!」
クライスは思い起こしていた、あの時の記憶、頭上に落ちたベルクラントの光にそのまま撃たれた筈だった。
目が覚めたらエルレインが居て、そして、ずぶ濡れのリオンが横たわっていた記憶が懐かしい。
『(………こいつが、海の探していた男)』
「……ん……」
まるで海の中にいるような穏やかな気持ちで海はゆっくりと目を覚ました。
身体を起こすと、まだ気だるさが抜けない。
「マン……ト、んん…?」
彼のソーディアンだろうか、奇妙な形をしたサーベルのような護拳の付いたソーディアン・シャルティエが壁に立てかけられているのが見えた。
むくりと上半身を起こすと海の身体を包むように紫紺に染まるマントが掛けられていた。
部屋の中央の椅子に座っている彼のやけに大きく感じたその背中を見た。
三年越しの彼の姿は、あの日別れたまま。
しかし、その顔にはやっぱり仮面のように素顔を隠すための骨を被ったままの、リオンが居た。
彼の後ろ姿を見た、たったそれだけのことなのに、嬉しくて涙が溢れそうになった。
「エミリオ、なの?」
スルリとベッドから抜け出し、静かに名を呼ぶと、リオンと思わしき男はゆっくりと振り返った。
仮面越しの目と目が合う。変わらない紫紺の瞳の色に心奪われた。だが、リオンの姿をしているのに、リオンと思わしき男はそうさせてはくれなかった。
眉間に皺をグッと寄せて、半ば呆れたように低い声で言った。
「悪いが、人違いじゃないのか?」
「えっ…」
リオンと思わしき黒衣の男が話った言葉は海を金縛りにした。
容赦のない、現実だった。
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