miss you D2前編 | ナノ
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電話を切ると、クライスが大きな荷物を引きずりながら部屋から出てきたところだった。待ちくたびれているが夜明けまでまだ後40分くらいは残されている。

「終わったか?」
「ちょうど、2人にお話しできたから……後ね、ちょっと待ってね」
「はぁ?まだかよ!?早くしろよ……、」

しかし、海の瞳には隠しきれない涙が浮かんでいた。
別れが恋しいのか、なんだかんだ言いながらもリオンと世界を引き替えにした海にも未練や、大切なモノがある。
そう簡単には割り切れないだろう。

クライスもすぐに黙り込むとまた部屋を出ていった。
そうして涙を拭うと、海は再び誰かに電話を始めた。呼び出し音もなくいきなり本人が飛び出した。

「もしもし、姉ちゃん!和之さんから聞いたけど斧持った男に襲われたって!!!」
「う、うん、でも、もう大丈夫だよっ!
お母さんは部屋で寝てるし、和之さんも病院に運んだから、」
「……姉ちゃん、和之さんとの結婚断ったんだって?」

次に電話に出たのは、リオンと同じ歳で、そして、海にとっては両親のいないときに唯一支えだった、翔だった。
かわいらしかった翔も今では立派に海外で活躍するサッカー選手として活躍している彼に余計な心配を与えたくなかったが、仕方ない。

「あのね、翔ちゃん、私、好きな人、が居るの…今から、その人に会いに行くの、」
「姉ちゃん、……もしかして!!リオンに会いに行くのかよ?だって、あいつは三年間もずっと姉ちゃんをほったらかしにしていたんだろ!?」
「だけど、でも、違うの!迎えに、来てくれたの!でも時間がない、もしかしたら、もうここに戻って来れないかもしれ無い、だけど、わた、し、翔ちゃんの活躍、応援してるね、ありがとう、」
「姉ちゃん……よく、わかんないけど、姉ちゃんが選んだ人なら、リオンでもいいよ、今まで姉ちゃんをほったらかしにして、けど、迎えに来たんなら、許してやっても良い。」
「ありがとう、翔ちゃん、私、素敵な弟がもてて、しあわせだったよ、私が落ち込んでるとき、日本から離れようって言ってくれたのも、翔ちゃん、だった、いつも遠くから本当にありがとう。オリンピック、頑張ってね、」
「任して、俺、必ず雪辱を果たしてくる。」
「お母さんを、お願いね…翔ちゃん」

昔は泣き虫だった彼が、今では立派なサッカー選手として、活躍するまでになった。
そう言って、電話を切った弟に海はスマホを握り締めて更に泣き崩れてしまった。

「みんな、こんな私のために、泣いてくれる、それだけでもう、なにもいらないのに、大事にしてくれてるのに、それでも、リオンが居なきゃ、私……いなくなってしまってごめんなさい。でも、必ず、幸せになるから」

もう時間がない、海はあわててシャワーで砂を洗い流した。
そうして長い長い髪を乾かし、軽く化粧を終えると、それだけでもう時間は残りわずかとなってしまった。
そうして、海は残りの時間で大きな紙にペンを走らせた。
相変わらずの丸字は今は形を潜め、さらさらと英語で綴っていく。

「お母さんへ。
たくさん悩んだけれど、もう時間がありません。
私は、この三年間、それだけのために生きてきたの。私、その人と一緒に幸せになりたい。
お母さんにお礼を言いたかった。
生まれて来て良かった、こんなにも誰かを愛せる人間に育ててくれて、ありがとう。
お父さんと、結婚してくれてありがとう。
私も、お父さんとお母さんみたいに、誰かと手を取っていきていきたい、その人のために、生きていきたいです。
最後まで我が儘ばかりでごめんなさい。

どうか、見守っていて下さい、
学費はこの口座に振り込んでおきました。
リオンの餌もたくさん用意してあるからお願いします。」

それを書き残すとリビングの上にそれを置いて、海はキャミソールとパンツ一枚から着替えた。

クライスに怒られるだろうが仕方ない。
手にしたマリンボーダーのワンピに袖を通すと、その上からPコートを身につけ、緩やかに巻いた髪の毛を高い位置でハーフアップにした。

最後にもう一度、さよならと言って身の回りのモノを確かめ、リオンと一緒に眠ったシーツにそっとすがりつくように泣いた。

リオンの香りはもう感じられなくても、それでも瞳を閉じてあの日をおもっていた。

「終わったか?」
「……うん、」
「女の身支度は長いな、結局またふりふりかよ、どうなっても知らないからな?」
「………」

海はもう何も答えなかった。
見た目からただの非力な女だと思っていたが、もうその瞳に迷いはなく、確かな意志を感じていた。
決心して部屋を出た頃にはもう夜明けを回っていて、慌てて踵の低いニーハイブーツを履くと、扉を見つめる。

「ここを出たら、もう後戻りはきっとできない。本当にいいんだな。」
「いいの、もう、何度も言わせないでちょうだい」

「じゃあ、行くとしますか。最初に忠告しておくが俺も何処の何処の時代に着くのかは分からない、真っ先にそいつに会える確率もかなり低い、それでも行くなら」
「いいよ、行きましょう!」

何か置き忘れた物はないか。いつも不安になるが今回はもう引き返せないのだ、それとは訳が今はもう違うのだ。
引くキャリーバッグはもうパンパンで、またまだ持って行けるものなら家ごと何もかも持っていきたい、そういう訳にもいかない。思い出も引き連れて、行くしかない。
もう前に進むしかない。

リオンがくれた指輪を左手の薬指に填め、インダストリアルを耳に通す。

「ありがとう、行ってきます、
……エミリオが私の居場所、なの
もうなくしたくない、今が、チャンスなの、きっと今を逃がしたらもうエミリオには会えない!」

歯の浮くようなセリフさえも言えてしまうくらいあなたを愛しているから。
だから、行こう。あなたの元へ…
さよなら…私の世界。

裏切りという鎖に縛られた貴方を…私が救い出すから、

そう心の中で呟いて、海はクライスの黒いその闇の中へと手を伸ばした。
再び歩き出す、待ち人の元へ、終わらない思い全てこの三年間を引き連れ行こう。約束を果たすために、



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