▼1

 学校が終わった帰り道、友達と本屋でお互いにお気に入りの漫画を買って帰り、家のすぐ近所のちょっと広い道で立ち止まってちょっと盛り上がる。どこからどう見ても普通の女子高生の生活。
 ちょっとオタクだけど、なんの代わり映えもない少しつまらない毎日。「この世界にいたら〜」なんて話すことはあるけど、実際に行きたいわけじゃない。だって怖いもん

「あ、そういえば明日までの宿題やってないわ!あれ時間かかるやつだよね?」

「答え見ながらでも相当時間かかると思うよ?今日中に出来るの〜?」
ちょっと茶化しながら言えば慌てたように「徹夜決定じゃん!!」と走って帰る友人を見送り、私も反対方向へ歩き出す
数学の先生は少し意地悪で、宿題の量がいつも多い。答えだけ書けばそれでいいっていう問題は少ないから時間がかかる
 家に帰って、明日の準備して、多分そのうち助けを求めて電話してくるであろう友人に付き合うためにちょっと寝ておこうかな。

 

 ずっとこういう暮らしをしているんだと思ってた
会社に揉まれてちょっとやさぐれたり、お酒飲めるようになって、大人になっても馬鹿出来る友達と遊んで、いつか結婚して子供産んで……って夢見るオタクにはちょっとつまらないけど、恵まれた生活を送れると思ってた

 首にはぶかぶかな大きい首輪。ずっしりとした重みがあってより一層現実味を帯びてる
手にも足にも鎖が繋がれてて逃げ出すなんて出来ない。仮に繋がれてなくても、この震えた身体に鞭打って逃げ出すことなんて出来ない
(こんなの、現実で求めてないよ…!)ぽたぽたと冷たい床に小さい染みができる
 部屋で仮眠を取ってただけなのに、目が覚めたら捕まってるなんてどこの小説だよ。頭では冷静に判断できるのに身体が追いついてなく、涙は止まらない

「目が覚めたみたいね。大丈夫?」

「え、は、はい」

「あぁ、驚かせちゃったかしら、ごめんなさいね。私魚人のハーフなの」

 腕に綺麗な鱗がある彼女はアシェラと言うらしい。気絶してたらしい私は男に放り込まれ、今では順番待ちの商品になっているそう
「私が言うのもなんだけど、鎖国してるワノ国の出身者なんて珍しいもの。道を歩いてるときは気をつけないとダメよ」もう遅いけど、とクスクス笑う彼女はどこか余裕があるように見えた。それにしてもこの大きな鎖に、魚人の単語、そしてワノ国、ここがどういう場所なのか分かってしまって絶望した

 よりによって生き延びづらいこの世界なのか。止まりかけた涙がまた溢れてくる。私はもう、家には帰れないのかな

「え、ど、どうしましょう?怖がらせるつもりじゃなかったのよ」
「ここだけの話だけど、売られることはないから安心して。ね?」

「ちが、」
言いかけて言葉に詰まる。怖い事に間違いはない。しかし問題はそこじゃない
 ここで助かったところで、私に帰る場所なんてない。
だって、世界が違う

「ねぇ、大丈__」
「お、起きたな?お前の番だぞ!さぁ立つんだ!!」

 グイッと首の鎖を強めに引かれ、息が詰まる。助かる必要はない。だって帰れないんだもん
せめて買い取ってくれる人がそこまで酷い人じゃないことを祈り、私は薄暗い部屋を出た。










back
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -