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プライマル。




この気持ちは確かに
わたしのなかにあったもの



「あれ、穂波?」

ふと掛けられた声に、本に落としていた目線をあげる。


「大野くん」

名を呼ぶと、やっぱり穂波だ、と笑顔を見せた。
ここ、いいか?と示す彼にどうぞと返す。


「此処、よく来んの?」

「うん。大野くんも?」


向かいの席に座る彼に聞き返す。


「いや、此処は初めてだな。いい感じじゃん。広いし、本多いし」


そう言いながら、持ってた本をぱらりとめくる。


「大野くんって、図書館好きだったっけ?」

「…意外か?」

「うん。ちょっと意外」

「何だよ、それ」


少しだけ眉を寄せる顔は、小学生の頃より大人びてて、何となく気恥ずかしくなった。


「そういや、さくらは一緒じゃないのか?」


辺りをきょろっとする姿に、少し胸が痛む。
でもこれは気のせい。


「…残念ながらね」


くすくすと笑って言ったら、きょとん、とこっちを見た。


「…まぁ、さくらが図書館って柄じゃねえか」


ちょっとそれは失礼じゃないだろうか、なんて思いながら、また本に目を向ける彼を見る。

親友の名を口にするときに見せる表情は、柔らかく優しい。
悪態を付いてるときにさえこうなのだから、気付かない方がどうかしてる。
これで無自覚なんて、何とも性質が悪い話だ。
まぁ、想われているであろう当の親友本人は、彼の気持ちはおろか自分の気持ちにすら気付いていないのだけれど。


くす、と笑ったら、彼がこちらを見上げてきた。


「…何だよ?」


拗ねたみたいな口調。
ちょっと可愛いなと思った。
勿論、言わないけど。


「うぅん、何でもないよ」


笑い出したいのを堪えて、言う。



「たまちゃん?」

ふと降ってきた声。
二人して顔をあげると、少し離れたところに、先ほどまで話題の中に居た人物が立っていた。


「まるちゃん?」
「やっぱり、たまちゃんだ!」


声を掛けると、嬉しそうにこちらにやってくる。


「珍しいねぇ、大野くんとたまちゃんが一緒なんてさ。あたしゃ人違いかと思ったよ」


にぱ、と笑顔を見せてわたしたちを交互に見た。


「俺はお前が此処にいることの方が珍しいって思うけどな」

「何さ、失礼しちゃうねぇ!あたしだってたまには図書館で本借りたりするもん!今だって返すために来たんだからね!!」


にこやかに悪態をつく彼に、思いっきりしかめっ面で対抗する彼女。
素直じゃないなあ、ホントに。


「二人とも落ちついて…ね?」


二人のやり取りは面白いけれど、周りの視線が刺さる。
やんわりと間に入ると、彼女は彼からぷいと顔を背け、受付口へ向かった。 


「何だよ、あいつ。せっかく褒めたのに」


彼女の背中を見つめながら、頬杖をつく。
的外れな言葉に、笑い出したいのを必死に堪えた。


「…大野くん、それ褒めてないと思うよ」

「え、そうか?」


きょとんとして、考え込む彼にますます笑いがこみ上げてくる。
こほん、と咳払いをして。開いてた本を閉じた。


「帰るのか?」


見上げてくる彼に、笑みを向けて。


「うん、まるちゃん気になるし」

「お前等、ほんと仲良いよな」

「一番の親友だからね」


言い合って、お互い笑い合う。
その笑顔は、わたしだけに向けられたものじゃないけど。


「あのさ……」


ふと、彼が呼び止める。


「なあに?」


振り返ると、少しだけばつの悪そうな顔が映った。


「さくら、まだ怒ってたら…悪かったって言っといてくれねーか?」


あの一瞬で、そんなことを思ってたなんて。
ああ、ほんとうに彼は。


「…そういうのは、自分から言ったほうがいいと思うな」


やんわりと笑って言った。


目を見開く彼。


「まるちゃんも、大野くんが悪気がないってことぐらいわかってるよ」
 

そう。ただ素直じゃないだけ。
彼も、彼女も。


「…頑張ってね」


それじゃ、と言ってわたしは席を立った。
考え込む彼を伺いつつ、気付かれないように笑う。


受付口には、まだ少しふくれっ面の親友の姿。
声を掛けたら、案の定先ほどのやり取りの話。

けど、それが心底怒ってる顔じゃないことぐらいわかってる。
彼の文句を言う彼女も、あの時の彼と同じ顔してるから。

相槌を打ちながら、わたしは彼女の機嫌を直すべく、カフェへと足を向けた。


柔らかく胸を満たす、小さな想い。
それは確かにわたしのなかにあった、
「好き」という持ち。


素直じゃない、彼らの言葉から感じるものもきっとそう。


彼女の手をとって歩きながら、わたしはいつか、彼らがお互いの想いに気付くことを願っていた。



END



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