大まる小説 | ナノ


発育途上の僕ら〜side O〜




あぁ、どうして

俺は男で
あいつは女なのだろう?



side O




朝の教室で、ぐったりと机に突っ伏すさくらの小さな背中が目に入った。
もともと小さい奴だけど、ああしていると余計にそう見えた。

その隣にはもうお約束というか、穂波の姿がある。
本当に仲の良い二人だ。

けれど、今日は様子が違う。
さくらは突っ伏したまま変な声を出し、
穂波は心配そうに話しかけている。

「どうした?大野」

後ろの席から、親友の杉山が声を掛けてきた。

「あ…、いや…」

どう答えたら良いか言い澱んでいると、
予鈴が鳴った。

ばたばたと騒がしくなる教室。
それでも、視線はあいつを捕らえていた。



東京から静岡へ戻ったあの日。
あの小川であいつと再会した。

相変わらず小さくて。
相変わらずの抜けっぷりに笑って。
相変わらずの口調に安心した。

そのとき思った。

ずっと、会いたかったんだ、と。


そう伝えたら、いきなり泣かれて、
驚いた。

でも。すぐに見せた泣き笑いの顔にひどく惹きつけられたのを、今も覚えてる。


それからだ。
何かとさくらが気になりだしたのは。
前から気になる奴だったけど、更にそう思うようになった。


けど、中学にあがってから二月。
次第にあいつはよそよそしくなった。

目が合えばぎこちなく逸らす。
話しかけようと近づくとそそくさと逃げる。
ただしこれは俺だけでなく、男子全般に対して、だった。
小学生の頃からよくあいつと絡んでいた、浜崎や富田は「付き合いが悪くなった」とボヤいていた。

どうしてかは分からない。
けど、それでも。


いつの間にか朝礼が終わり、一限目の授業の準備をする声が聞こえる。

ふと、見ると。
さくらはさっきと同じ体勢のままで、動き出す気配が無かった。

穂波が呼びに行こうと駆け寄るのが見える。

「…大野?」

準備を終えた杉山が呼ぶ声も聞かず。
俺は教科書を掴んで席を立った。

「穂波、俺があいつ呼んでくるから」

「え、…うん」

穂波を制して、俺はさくらに近づいた。

「…さくら」

少し大きな声で呼ぶ。

すると、のそりと頭が持ち上がり。
だいぶ疲れた顔が見えた。

顔色が、悪い。

「…大野くん…?」

ぼんやりした目が、俺を捕らえた途端、
大きく見開かれる。
気まずそうな、顔。
その顔に、胸のあたりがちりりと痛くなる。

いつからか、あいつがそうする度に、痛み出すようになった。

眉間に知らず力が入る。
それを悟られたくなくて、呆れたように言った。

「一限目、移動だろ?早くしないと遅れるぞ?」

一瞬だけかちあった目は、やっぱりすぐ逸らされて、穂波の姿に気づくと、慌てて準備を始めた。

「…ありがと…」

席を立ち、俺と視線を合わせないまま、
それでも小さな声で礼を言う。
その顔色のあまりの悪さに、思わずその肩を掴んだ。

「待てよ、お前顔色悪いぞ?大丈夫か?」

「…別に…そんなこと無いよ…?」

案の定、さくらはそう返してきた。
けれど顔色は更に悪くなっていて。

「そんなことあるだろ、真っ青じゃねぇか」

ちらりと俺に目を向ける。
きっと俺は今、怖い顔をしているのかも知れない。

「ホントだいじょうぶだから…ほら、大野くんも早く行かないとおくれるよ?」

困ったように、少し笑う顔に、胸の痛みが増す。

あんな顔をさせてしまうのか、俺は。
どうしようもなく苛立って、俺はさくらを解放した後、そのまま教室を出た。

杉山が慌てて追い駆けて来るが、気にも留めなかった。



TEXT
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -