大まる小説 | ナノ


再び、あの場所で。




『古い友達も、ずっと仲間だよ』

『…ね、そうだよね?』



春の小川であいつが言ったあの言葉が、今も心に残ってる。






「けんいち、もうすぐ静岡に着くから、用意しなさい」

「わかった」


まさか、またこの静岡に帰ってこれるなんて、思ってなかった。
新幹線から次第に見え出す、懐かしい景色に、思いを馳せる。


小学3年生の時、父親の転勤で東京に引っ越すことになって。
その事がもとで、親友の杉山と喧嘩したりしたっけ。

今となっては懐かしく思う。

ふと、転校前に行った春の小川の風景を思い出した。


杉山と喧嘩したままだった俺は、さくらと穂波、長山とその妹が春の小川に行くと言うのに同行した。


長山の妹は病気で長く入院をしたため、再び一年生からやり直す事になった。
それを嫌がって、ずっと泣いていたと言う。

彼女を元気付けるという名目もあったのだろう。


知らない場所での、知らない人たちとの出会いと不安。

事情は全く違ったが、自分もその気持ちが何となくわかる気がした。


だから。

長山の妹が飛ばしたタンポポがちゃんと新たに花を咲かせているのか気になった。


川向こうの木の下。
ピンクのレンゲの中ににまじって咲く、たくさんの黄色いタンポポ。

あの時の風景は、今も忘れはしない。


そして。

あいつ……さくらの呟いた、あの言葉。


あの言葉のおかげで、俺は杉山と仲直り出来た。


あの時のあいつの言葉は、ずっと俺の支えになっていた。




『しずおかー、しずおかー。お降りの際は…』


事務的な声で到着を告げるアナウンス。


ようやく着いた。
みんなどうしているだろうか。
早く、会いたい。

杉山に、

そして、さくらに。


どうしてかそう思った。
その気持ちがどんなものかなんて、まだ知る由もない。



久し振りの静岡の地。駅のホームは昔と変わりなく、たくさんの人が行き交っている。


「けんいち、父さん達は家の方に行くが、お前はどうする?」

父さんが荷物を持ちながら問い掛けてきた。


「んー…そうだな」


少し考え込んでいると、


「おーい、大野ー!!」


後ろから聞き慣れた声が響き、振り返る。


「…杉山!」


懐かしい親友が立っていた。
駆け寄って肩を叩き合う。
何度か電話や手紙をやり取りしてはいたが、顔を合わすのは4年振りだ。


「久し振りじゃん!元気そうだな」

「何言ってんだ。一昨日電話でも同じこと言ってたぞ?」

「あれ、そうだっけ?」


杉山の変わらない調子に思わず笑う。
なんだかホッとした。


東京での暮らしは悪くはなかった。
友人もたくさん出来たし、それなりに楽しかった。

けど、杉山のように『親友』と呼ぶに価する存在は現れなかった。


それに、さくらのように気兼ねなく話せたり、見ていて楽しい女子も居なかったのだ。



『大野くん』



不意に、さくらに呼ばれたような気がして、振り返る。

けど、姿は見えなかった。
 

「本当に久し振りね。またけんいちをよろしくね」

「はい、任せてください」


母さんと杉山の会話が聞こえてきて。


「誰に何を任せるって?」

「きゃー!大野くん、ちょ、ロープロープ!」

背後から杉山の首を羽交い締めにすると、杉山は奇妙な悲鳴をあげる。

そのやり取りを見て、父さんと母さんは顔を見合わせて嬉しそうに笑った。



「あ、そうだ。大野、この後時間ある?」

「ん、ああ。特に何もないし」


羽交い締めから落ち着いた杉山がいきなり聞いてきた。


「そっか、よし。おじさん、おばさん。大野借りてっていいですか?」

突然の申し立てに面を喰らう俺を尻目に。二人は笑って。


「ああ、かまわないよ」
「けんいちも久し振りの町をゆっくり見たいものね」

にこにこと笑いながら、二人は出口を降りていった。
 


「何だよ、何かあるのか?」

「いーからいーから。とにかく、行こうぜ」


ぐいぐいと背中を押してくる杉山は何か企んでるような楽しそうな顔をしていた。


「行くって何処へ?」


押されながら訊ねると、にかりと笑って答えた。


「ん?思い出巡り、てとこ?」

「はぁ?」



ワケもわからず、俺は杉山に押されるまま、駅を出た。



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