大まる小説 | ナノ


発育途上の僕ら〜side M〜




あぁ、どうして。

あたしは女で
あなたは男なのだろう




side M


「あー…」

「…まるちゃん、大丈夫?」

机に突っ伏して、奇声をあげるあたしに、親友のたまちゃんが声を掛けてくれた。

「たまちゃん…うん…何とかね…」


力なく笑うあたしに、たまちゃんは心配そうな顔をする。
無理もない。
昨日からずっとこんな感じなのだ。
身体のだるさ、重い腹痛、若しくは頭痛。
全身に血が巡ってない感覚。
女特有のモノ。
この辛さは経験しないと分かるまい。


「でもキツそう…あたし薬持ってるけど、あげようか?」

「いいよ、飲んだら眠くなっちゃうから…ありがとね」


そこまで言って、予鈴が鳴った。
席を離れた生徒たちはばたばたと自分の席、或いは教室へと帰っていく。
たまちゃんの背中を見送りながら、あたしは今日一日を乗り切れるのかとため息を漏らした。

中学にあがってから二月して。
それは突然訪れた。
そうでなくとも日に日に変わっていく身体の変化に辟易していたあたしは、それの訪れに酷く動揺した。
授業や母、姉などから話には聞いていたけど、やっぱり現実になると衝撃だった。

ああ、あたしは女なんだ、と。

それまで相も変わらず男子たちと暴れたり馬鹿をやったり、ずっとそれが続くものだと思っていた自分が子供じみて笑えた。

今では男子と口を利くだけでもどこか後ろめたく苦痛で。
次第に仲の良かった面子とも話さなくなっていた。 


「…さくら?」


ふと、掛けられた掠れたような低い声。

いつの間にか朝礼は済んでいて、教室は人がまばらだった。


「一限目、移動だろ?早くしないと遅れるぞ?」

教科書を片手に、呆れたような顔をするそのひと。

「…大野くん…」



小学3年の時に東京に引っ越した彼は中学にあがる直前、再び戻ってきた。
ガキ大将で、喧嘩も強くて。
乱暴だったけど、それだけじゃなくて。
真面目で曲がったことが嫌いな、背筋がいつもシャンとしているひと。


当然、たくさんの女の子たちから憧れられてたけど、ひどく硬派で女泣かせだった。

彼が帰ってきたとき。
春前の小川で、彼はあたしに相変わらずで安心した、と頭を撫でながら笑って。

こう言った。

『会いたかった』と。

まるで知らないひとみたいだった。
優しそうな顔で、不覚にも胸が高鳴って、泣いてしまうぐらいに。

それからかも知れない。
あたしが彼を、
男子ということを気に掛けだしたのは。



黒い瞳と一瞬かちあい、気まずさでいっぱいになった。
教室の前で心配そうに待つたまちゃんを見つけ、あたしは彼とは視線を合わせずにそそくさと準備をする。

「…ありがと」

それだけをどうにか絞り出して。
あたしは早々と立ち去ろうとした。

そのとき。

「待てよ、お前顔色悪いぞ?大丈夫か?」

ぐい、と肩を掴まれた。
その手は大きく、筋張っていて。
あたしとは全く違うモノだった。


「…別に?そんなこと無いよ?」

「そんなことあるだろ、真っ青じゃねぇか」


ちらりと顔を見れば、形の良い眉をひそめた、綺麗な顔が視界に飛び込んでくる。


「ホントだいじょうぶだから…、ほら、大野くんも早く行かないとおくれるよ?」


そう言うと、漸く放してくれた。
そしてそのままスタスタと教室を出ていった。
あたしもそそくさとたまちゃんの元を急いだ。


「まるちゃん、ホントに真っ青だよ?」

「大丈夫だよ、気にしないで」


そうは言ったものの、気持ちはとてつもなく重かった。

大野くんのさっきの顔が、ちらついて。
怒ったような、少し寂しそうな顔が。




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