遺都



終わりかけた夏の海/木洩れ日のきらめき/バス停のベンチ/グラウンドの砂埃/いつか見た、もの、
いつかといつかの
その間にある
覚えていられなかった無数のものたち、
と、

***

かもしれないの渦の中で
水面に投げた小石のように
一足飛びに生きていく子ども
点々と咲く波紋を
薄紙に写して
丁寧に敷き詰められた
音のない砂漠
聞き取ることを許さなかった
その
ささやかな足音から
夥しい蔦の波が這い上がっていく
ただ、都市をめざして

「大きな木を下から見上げるのが好きだった」
「葉と葉の隙間が光を落として」
「そよ風に光の粒がこすれ合うみたいに」
「降り積もる」
「地面に落とした視点を」
「根を這わせ」
「なめあげるように」
「その幹の途中に」
「飲み込まれている錆びた自転車」
「おまえはどうしてそこにいるの」
「何を見ているの」
「降り積もる光の粒」
「どこからか巻き付いて離れない蔦」
「嘗てハンドルの先にいた小さな」
(目に見えない足跡を辿って)

ここは
林立する棺の群れ
串刺しにされた日没の残滓
音もなく目を覚ます街灯
熱を持たない物たちが
決められたとおりに巡回する
遺された街は
いつまでも正しい

***

都市を廻り尽くした蔦はすでに循環器としての役目を終えていた
やみくもに枝葉を茂らせ
建築物を殴打し続ける
その葉脈の
しがみついて離さない手のひらの
か細いすき間から
音もなく溢れるコンクリート
夢みるように
堆積していく
遮るものも無い
沈んでいく遺物たちから
這い出してきた
やわらかな生き物の
はっせい




いま、わたしたちはほろんでいる





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