真夜中の公園へ呼び出した彼は空を見上げていた。雪が積もる遊具には目もくれず公園の中心にぽつりと立ち尽くす姿は、そこだけ異国の景色を切り取ったような寂しさがあった。
影山には真っ白な雪がよく似合う。
真っ直ぐに伸びた黒髪が、瞳が、曇り空の中から顔を出す月の光に反射されて時々光る。白い雪はそれを驚くほど引き立てた。彼の吐く白い息さえとても儚げで、朝が来たら消えてしまうのではないかとぞっとする。我ながらロマンチックな思考だと、暗闇に呑まれているだけだと自嘲して、僕を待ち続ける影山の腕を掴んだ。

「うおっ…あ、お前か。遅ぇよ。」
「ごめん、いきなり呼び出して」
「別に。起きてたし」

でも寒ぃ、そう言いながら影山は自分を抱きしめるようにして腕をさする。ろくに防寒具もつけず(手袋だけはしている辺り流石だ)、ジャージだけの彼を見るとさっきまでの消えてしまいそうな儚さなんてどこにも見当たらなかった。それに何故か安心感を覚えて心が暖まる。いつもの、影山だ。

「お前…何ニヤニヤしてんの」
「せめて微笑んでるって言って欲しいね。…まあそろそろ時間も丁度かな。はいこれ」
「あ?なんだこれ」
「誕生日プレゼント」
「…あー、」

ガサガサと包みを開けながら、すっかり赤くなった鼻をかく。この仕草が彼の照れ隠しだと気付いたのは最近のことだった。
彼は丁寧に施されたラッピングを無造作に開いていき中に包まれたものを広げて、おお、と歎声をあげる。

「マフラーか」
「いつも寒そうだからね、首」
「んー」
「巻いたげる」
「ん」

ラッピングをたたみながら素直にマフラーを渡される。影山には青地に黄色いラインが入ったシンプルなデザインのマフラーを選んだ。寒色なのに何故か暖かみのあるそれが、どことなく彼に似ていたから。

「はい、巻けた」
「…あったけえー」
「それは何より…うわ、君顔冷た」
「お前が待たせるからだろ」
「そこまで待たせてないでしょ。なんか温かいの買ってくるから待ってて」

公園の隅にあったはずだ、空気を読まずにぎらぎらと光り続ける自販機が。コートの内ポケットに入れた財布を取り出しながら歩き出すと、影山も僕に並んだ。待っててと言ったばかりなのに。

「俺も一緒に行く」

肩がぶつかるぐらいの距離、小さな声で「ありがとな」と聞こえた。
寂しい彼は、もうどこにも居ない。


やがて夜空は白く溶け
(暖かい君と手を繋ごう)




HappyBirthday 飛雄ちゃん!
2013.12.22