!殺人鬼な及川さん


いつからだったか。及川の部屋はいつも生臭くて、真っ赤に染まっている。数年前はこの部屋に入るたびにこみ上げてくるものに耐えきれなくて汚れている部屋を俺の嘔吐物でさらに汚していた。今ではすっかり慣れてしまって、慣れた俺もまた異常なのだとわかっていた。


「なあ及川、今からいくつかクイズ出すからあんまり深く考えずに感覚で答えろ」

「クイズ?ふふ、珍しいね岩ちゃんがそんなこと言い出すなんて」

「うるせえいくぞ、一問目」


いつも爽やかな笑顔は俺と二人きりの時は年相応に幸福そうな、しかし大人びた色気を含んでいる微笑に変わる。ハードなスキンシップはなく髪の毛一本触れることさえ躊躇うような、壊れ物を扱うよりも及川は優しく接した。俺の吐き気を誘うほどに。
男子高校生の平均身長を超えた二人が真っ赤な部屋の中央にある布団に寄り添って座る姿は異常に滑稽だ。この部屋には異常しかない。


「とある青年の母の葬式にとても魅力的な女性が来て、青年とその兄は一目惚れをした。翌週青年は兄を殺した。何のために?」

「それクイズなの?なんか心理テストみたいだね」

「似たようなもんだろ。早く言え」

「うーん…葬式でまたその女の子と会うために、かな」

「……次。お前はある人を恨んでる。お前はそいつの家に飛び込んでそいつを殺した。んで、恨みとは無関係な子供とペットも殺した。何故?」

「物騒なテストばっかりだね…まあ、二度と会えないのは可哀相だから。天国で再会させてあげたくてじゃない?」

「………………」

「岩ちゃん?」


まずい、まずい。俺は用意したいくつかの質問で安心したかったはずなのに。


「…次の質問。嵐の日にお前の他、死にかけの老人とお前好みの女性、親友がいるとする。お前は車を持ってるけど、もう一人しか乗れない。…助けるなら、誰だ」


「好みの女性っていうのは岩ちゃんみたいな女の子でいいのかな」

「好きにしろ。面識はない前提な」

「じゃあ。親友に運転させて老人乗せる」

「…お前と女は」

「俺は残って女の子レイプする」


にっこり。これがベストだと言わんばかりの表情で及川は笑う。

「あ、勿論岩ちゃんにそんな酷いことしないからね、安心してね」

「…なあ」

「なあに?」

「お前、一体何人殺したんだ」


部屋の中央にいる二人の男、即ち俺と及川を囲む赤い畳と血に染みた障子。ごろごろ転がる幾人もの少女。正面にいる見覚えのある髪の綺麗なあの子は、昨日俺に告白してきた子だ。
及川はさも可笑しそうに笑う。



「こいつら、岩ちゃんに愛を告げるなんて烏滸がましいんだよ」


もう少しだけ待っててね
(君を愛する俺以外の全て)
(殲滅するにはまだかかる)




thx 休憩