*素敵企画様に提出させて頂きました *モブ男子登場 *月影付き合ってます 昔から体育の時間が嫌いだった。背が高いというだけでバスケでは経験も無いのにゴールの近くに立たされやたらと厳しいマークを受けるし、サッカーでは大抵ディフェンスに回された。スポーツなんて背だけあってもコツを知らなければ上手く出来るはずもないのに妙な期待を抱かれて、まるで「君はいい仕事をしなければいけないよ」とでも言われているようで嫌だった。幸い僕は己の身体を器用に動かすことができたから、可もなく不可もなく、褒めちぎられるほどの活躍はせずとも悪態を吐かれるほど酷い動きもせずに済んだ。けれども、どうやら王様たる彼はそうではないようで。 「っおーい影山ァ!今やってる競技バレーじゃねえぞぉ!」 「う、うるせぇなわかってんだよ!反射で手ぇ出ちまうんだからしょうがねえだろ!」 「しょうがなくねえよー!お前何回ハンドすんだ!」 金曜の3時間目、体育。烏野では2クラスで体育を実施するため、誠に不本意ながら王様のいる3組と僕や山口のいる4組が合同で行われる。何が不本意かと言えば僕の王様が他の男とのスキンシップを確実に普段より多くとっているのを黙視しなければならないことに他ならない、王様のような天然で鈍感なキャラクターをいじらずには居られない年頃というのは僕にとって非常に厄介だった。勿論僕のそんな気持ちに気付かず一生懸命体育をやる王様は、今日も今日とて3組の男子にからかわれていた。 「いいか影山、今やってんのサッカーなんだよ。お前がバレー得意でも手ぇ使っちゃいけねぇの」 「んなこと知ってるわ!」 「知ってんなら上からパスきたボールをトスしようとすんな…」 ミッドフィルターについているサッカー部の男子2名に窘められて、王様は最終的に言い返せなくなったようで渋々と自分のポジションである味方ゴール前に戻った。僕と同じく「背が高いから」という安易な理由でディフェンスにされた王様は隣に立つ僕を見て「なんだよ」と少し恥ずかしそうに言った。ああ、この子でも羞恥心なんてものがあるのか。 「王様バカじゃない?あんな勢いよくパスされたボールに手伸ばすとか」 「あぁ!?バカじゃねぇよ思わず出ちまうんだよ王様って言うんじゃねえ!」 「言いたいことはひとつずつ言ってくんない」 「〜〜〜っくそ!!お前だって得点絡んでねえじゃねえか!」 「ディフェンスなんだからいいでしょ、ゴール割られてもいないし」 僕は体育ではしゃぐなんてださいことはしないから、相手と競ったりヘディングしたりなんてしないで無難に凌いでいるだけだけど。それ以前に王様はサッカーのルールが今一つ掴めていないんじゃないだろうか。国際的なスポーツもバレー馬鹿の前では形なしだ。王様はなんとも複雑な顔で「手は出さねえ手は出さねえ手は出さねえ」と繰り返し呟いている。こちらとしては彼が変人だということは百も承知だし見慣れたものだが、ゴールキーパーを務める僕のクラスの級長はそれが呪詛を唱えているようにでも見えたのかとても恐ろしいものを見る目で王様を見ていた。そうこうしている内に、ボールはだんだん僕らの方へ近付いてくる。 「…影山」 「手は出さねえ手は出さねえ、あ?なんだよ」 「僕が隣にいるのにうちの大事なセッター様に突き指させるとか、有り得ないから」 「は?」 左のサイドバックからシュートがくる。ハンドをして欲しいのか王様めがけて蹴られたように見えるボール。運動センスだけは健在な王様はそちらを向くと手を伸ばそうとして、慌てて引っ込めた。バレー馬鹿たる彼の頭にはヘディングなんて文字はない。けれど、このままでは王様の顔付近にボールが当たってしまう。僕は何も考えずにそちらへ走った。 「、世話のかかる…ッ!!」 「え、っうわ!?」 王様を押しのけて、そのついでに肩を借りて跳ぶ、絶対にしないと思っていたヘディングをして味方へと繋いだ。月島ナイスクリア、前運べ前、味方の声が響くのを聞きながら息を整える。ふと視線を感じて横をみると、王様が目を丸くして頬を薄く染めていた。 「……何、王様」 「いや、あー…別に。助かった」 「…別にいいけど。肩大丈夫?」 「へ、ああ、平気」 「そう」 「…おう」 短いやりとりを終えてから小さくさんきゅと聞こえる。こういう時王様は意外と素直なもんだから抱きしめたくなるけど、公衆の面前で出来るほど僕らはオープンな関係を作っていない。代わりにポンと頭を撫でると、王様は一気に顔を赤くさせた。 「え、何どうしたの、顔あっか」 「うるせえうるせえうるせえ!!あーちくしょう月島この野郎!」 「はあ?」 王様の頭に乗せていた手を掴んで降ろされる、振り払われない様子を見ると怒っているようではないけれど文句を言われなきゃいけない覚えもない。訳の分からなさも天下一品だね、言葉をかけようとしたら片付けの号令がかかった。着ていた青いビブスを脱いで所定のかごに戻しに行こうとしたら体操服の裾を軽く引っ張られて、振り向くと赤い顔のまま俯いた王様。授業の終了を伝えるチャイムと共に、その口が小さく動いた。 お前、かっこよすぎるだろ。 王様の前髪が風になびいてサラサラ揺れる。何も言わずに王様の着ている僕と同じ色のビブスを引っこ抜くように脱がしてかごの方へと歩みを進める。王様もそれについてきた。きっと不意打ちというのはこういうことを言うんだろう。あのまま体操服を掴まれていたらそこからじわじわ熱が伝わって僕まで赤くなりそうだった。 体育の時間は嫌いだ、面倒くさいし妙な期待をされるし暑苦しい。だけど、こうして王様に良いところを見せることが出来るのならば、それはそれで悪くない話だと思う。 1時間のヒーロータイム (君が好きだというのなら) (形振り構っていられない) |