*及影と黒研前提
*ぬるいえろ












俺と及川の関係に名前を付けるとすれば、いわゆるセックスフレンドというやつに当てはまる。お互い出会う前から何よりも大切な恋人がいるにも関わらず、2ヶ月にいっぺんくらいの頻度で俺たちはどちらかを訪ねてはセックスをした。俺が及川を訪ねることもあるし及川が東京に来ることもある。気軽に会いに行ける距離じゃないからこそ俺たちはセフレなんだろうけど、きっかけなんて覚えていないぐらいには回数を重ねてきた。俺がネコで、あいつがタチ。俺は研磨以外に突っ込むのなんて嫌だったし、及川は及川で「バックバージン喪失だけはごめんだよ」とかほざいてやがったから立場は特に問題にならなかった。研磨以外の男とセックスをしていて、しかも俺が抱かれてるということに後ろめたさはあったけど浮気をしている気はしなかった。そこに恋愛感情なんて毛ほどもないから。それは及川も同じのようだった。















金曜の夜に突然及川が押し掛けてきた。いつもはアポを取ってから来るくせに今日はそれがなくて、突然鳴ったインターホンの音に研磨かと思って無意識に頬が弛む。玄関に向かったら俺が開ける前に扉が開いた。その瞬間研磨じゃないとわかって思わず舌打ちをする。





「出会い頭に舌打ちとは随分なご挨拶だね」

「……何しに来た、及川」

「何って、そんなの一つに決まってるでしょ」


セックスしに来たんだよ、黒ちゃん。



確かに俺たちの間で用事と言えばそれぐらいのものだけど、それを笑顔に言い放つ及川に引いた。無駄にいい顔の残念な生かし方だ、あの烏野のセッターはこれのどこがいいんだろうか。顔とテクニック以外の長所が思い当たらなくて考えるのをすぐやめた。








「そしたらさ、トビオちゃんったら何て言ったと思う?『行かないで下さい及川さん』だって!もー可愛くって可愛くって、反射で抱きしめちゃった」


「あっ、そ」



及川は自身を俺の中に埋めてゆらゆらと腰を揺らしながら惚気続けた。いつものことではあるけど、こっちの余裕が無いときに惚気をぶちまけるのは卑怯だと思う。俺だって研磨が如何に可愛らしいかを話してやりたい、先週夜久が悪ノリで持ってきた猫耳カチューシャつけてくれたんだぜ、その場で襲わずに耐えた俺を褒めろ、それに昨日なんかはわざわざ俺の教室まで来て弁当届けてくれた、もはや妻だ、俺の可愛い奥さん。言いたいことは山ほどあるのに俺の口からは吐息混じりの母音しか出てこない。話そうとすれば女みたいな嬌声が出そうになるから黙って及川の話を聞くしかなかった。その間も及川は抜かりなく愛撫やら腰の動きやらを止めないから焦れったくて仕方がない。




「ん〜、黒ちゃん静かになってきたね」

「誰のせいだと、ッは、思ってん、だ、あ、」

「いーじゃん別に、黒ちゃん遅漏だし」

「うっる、せえ、絶倫野郎が…ッあ」

「…もっと声出せばいいのに」



突然俺に体重をかけるようにのしかかってきて繋がりが深くなる。不意打ちの快感に声が出そうになって唇を噛んだ。眼前に及川の不服そうな顔。そういえばこいつとキスをしたことはない。



「…黒ちゃん、」

「…ッ、ふ」

「は、ファーストキスだ」




鼻で笑うように及川は言って、形容しがたい表情で俺の髪を梳く。トビオちゃんは触れ合うキスが好きなんだよと耳元で言われた。


「研磨は、あ、キス、下手だ、ん」

「…へえ」

「でもそれ、が、すっげ、可愛い」

「…そう」




研磨から初めてキスをされた時のことを思い出して、力が抜ける。思い切り歯があたって、二人して涙目だった。研磨、研磨。なんであいつ、あんなに可愛いんだろう。心の中で呟いたはずが、いつの間にか声に出てた。




「今の黒ちゃんだってカワイイよ」

「…死ね、及川」

「お断りする。そんでね、俺の飛雄はもっともーっと可愛いから」

「…死ね」

「お断りする」




恋人への想い以外はふざけたことばかり言い合って、その内激しくなっていった行為に俺も及川もこの空間に居ない人物の名前をあげて達した。虚無感なのか充足感なのかもわからない。すっかり乱れた前髪をかきあげて視界をクリアにすると、及川と目があった。そうしていつもの笑顔でこう言った。







「今ね、死ぬほど飛雄とセックスしたい」




間抜けなピエロのファージゲーム
(全くもって、同感だ)