*甘い
*及川さんがトビオちゃんトビオちゃんうるさい







「トビオちゃんはどうして俺のこと名前で呼んでくれないの?」

「…いつも呼んでるじゃないですか、及川さんって」

「ファーストネーム」

「………」





あんたはまた面倒な、そんな風な顔。全くこの3つ下の恋人は遠慮というものを知らない。
だって、好きな子には名前で呼ばれたいじゃん?



「あんた本当に面倒な…」

「わあビンゴ」

「はァ?」

「なんでもないよ。ね、徹って呼んでみてよ」

「えー…」


今度は照れたような、やっぱり面倒くさそうな顔。俺に対して考えてることをオープンに表してくれるのは嬉しいけど、名前一回呼ぶだけがどんだけ面倒なの、お前。




「いいじゃん、名前で呼んでよー」

「しつけぇです」

「なーまーえー」

「いや…本ッ当うざいっす」

「なんと言おうと俺は催促し続けるよ、ほーられっつせい」

「………とう、」

「あーちょっと待って俺の名前は『とおる』であって『とうる』じゃないよ」

「ッあああ!!うっぜえ!!呼べばいいんだろ呼べば!!おーいかわとおるさァアん!!ハイッ良かったっスねー俺に呼んでもらえて!」

「すごい逆ギレの仕方かつフルネームってさすがだよトビオちゃん」





すっかり機嫌を損ねたトビオちゃんは読んでいた雑誌(俺の)を放り投げてベッド(これも俺の)に顔を埋めた。
…そんな可愛いことしてると襲っちゃうぞー。



「……なんでそんな名前に拘るんですか」

「別に。俺は飛雄って呼んでるのにって思っただけ」

「……………」

「恥ずかしいんならいいよ、呼ぶ気になったときで」

「あの、」

「ん?」



ベッドに埋めていた少し紅い顔を上げて、抱きしめてもらっていいですか、なんて可愛いお願いをしてくるトビオちゃんに勝てるわけがなくて、両手を大きく広げた。
それを見たトビオちゃんが、俺に申し訳程度に倒れ込む。




「どうしたのいきなり」

「……なんとなく、です」

「ふうん?まあ俺としては、トビオちゃんから甘えてくれるのは万々歳だけどね」

「………さん、」

「?、何?」













「………………徹、さん」





俺の腕の中で、耳まで真っ赤にしたトビオちゃんがぼそりと呟いたのは、さっき散々催促した俺の名前で。
余りに急な心変わりに思わず目を見開いていたら、あーもう忘れて下さい!だなんて言って暴れ出した。



「そんな、忘れるわけないじゃない」

「ッ、ニヤニヤしないで下さい…!」

「それは聞けないお願いだなー」



口から笑みが零れて仕方がない。
見てみろよ世界諸君、俺の後輩はこんなにも可愛い!
愛しくて愛しくて、愛しくて。そればっかりが浮かんで、胸が苦しくなる。




まぁ、トビオちゃんへの愛情で苦しくなるならどうってことないけどね。



ファーストコール
(いっそ記念日にしたいぐらいだよ)
(…それは勘弁して下さい)