!病み及川





「ねえトビオちゃん、トビオちゃんは知ってる?人間っていうのはね、首を絞められたら息が出来なくなるんだよ。掴まれてぐーっと力込められただけで苦しくなっちゃうの、要は窒息だよね。ゆっくり、ゆうっくりと全てを重力に任せた身体が、内臓が沈んでいって、それはそれはさぞかし苦しいんだろうよ。生きている俺達には到底理解しえないねえ、トビオちゃん」




なんなんだ、この状況。
部活が終わってから約1時間半、一人サーブの練習をしていたら烏野に突然及川さんが現れた。とは言っても何を隠そう俺と及川さんは恋人の関係にあたる。会いに来たよといつもの笑顔で言う及川さんを俺はすぐに信じた。
恥ずかしいし女々しいから口には出せないけど、一緒に帰りたいと思って片付けを始めた、その、矢先。


及川さんは俺を体育館の床に無理やり押し倒して、すぐに覆い被さる様に上から覗いてきた。

俺は一瞬の内に何が起きたのかさっぱり解らなくて、ただ床に強くぶつけた右肩を案じることしかできない。
そして及川さんは口を開いた。
小学生でも解るような、人間の仕組み。
一つ解ったのは丁寧に話していく及川さんの言葉から滲み出る、狂気。
俺の頭は驚くほどに働かない、なんだこれ、どういうことだ、怖い、怖い、怖い。


「お、いかわさ、」

「トビオちゃんの肌は白いねえ、いくらバレーがインドアスポーツだからってもう少し健康的な色になれたらいいんじゃない?ロードワークとかしてないの?それとも赤くなるだけで日焼けしない体質なのかな、トビオちゃんは気付いてないかもしれないけどこの白い肌のせいでトビオちゃんの項って、すごおく色気があるんだよ。真っ黒な髪も相まってね、中学時代みんなチラチラ見てたの気付かなかった?岩ちゃんも金田一も国見もみんなお前に欲情してたよ」

「…ッ、そんなわけ、」


「そんなことあるんだよ、お前は鈍いから気付かなかっただけで。あぁ、そうだ。折角俺のおかげで知ることが出来たんだしさ、明日から気にしてみたら?どれくらい自分がそういう視線集めてるかっていうの。それで自覚しなよ、みんなからどう思われてるか。ん、あれ。今気付いたけどトビオちゃん喉仏あんまり出てないんだね。もう変声期とっくに終わったろうにさ。セックスしてるときあんなに高い声出るのってこのせい?」


「、うるさい…ッ」

顔に熱が集まるのと同時に喉仏を親指で軽く押されて戦慄する。
及川さんの親指は止まらずにぐいぐいと喉仏を押し潰す。
ちょっと待ってくれ、このままじゃ、俺は、



「ふふ、苦しい?トビオちゃん。あんまり抵抗しないんだね、驚きすぎて思考がついていってないのかな?気持ち良くて、ってことはないみたいだけど。ああ、苦しそうだねえトビオちゃん。飛雄、飛雄。息が出来ないって辛いんだろうねえ、俺には到底理解し得ないけどさ。ん、あれ、トビオちゃん?もう意識飛びそうなの?仕方がないね、好きなだけ意識手放しちゃいなよ、俺がぜえーんぶ責任持つから、さ」




喉にかかる力は弱まることをまるで知らないようで、頭がどんどん白んでいく。
完全に意識を飛ばす直前に見た及川さんの顔は、酷く歪んだ笑みだった。




白い喉が美味しそう
(めでたくお前は俺の人形だ)




thx 茫洋