コート上の王様たる僕の恋人は、キスをするとき決して腕や首に手を回すことをしなかった。弱々しく僕の服を掴み、苦しくなると同様に弱々しく胸をたたく。
彼が自ら望んでキスをしたことは、一度たりともなかった。



「王様ってさ、」
「…あ?」

僕が部室の鍵当番の日、最後まで残っていた王様をここぞとばかりに引き寄せて、気が済むまでキスをした。そうすると彼はやっぱり僕の胸のあたりを掴んで、やや荒々しい口づけに懸命に応える。
お互いの顔を離すと王様の頬は赤みを帯びていて、思わず反応しそうになる自分に舌打ちしたくなった。


「あんまりこういうこと聞きたくないんだけど」
「んだよ」
「今後に関わることだからちゃんと答えてね」
「しっつけえな、とっとと言えよ」
「あー…もしかして、さ。嫌い?」


僕とキスするの。


さっきまで顔を赤くしたまま僕を睨んでいた王様の目が、バッと大きく見開いた。あ、この表情初めて見た。


「なっ、ななななな、なんでンなこと聞いてくんだよ!!」
「いっつも僕からしてるなーとか、手ぇ回してくれないなーとか思ったから。何キョドってんの?まさか図星?」
「ボケ!!んな訳あるか…、っ!」

王様は言ってから、しまった、という顔をした。もちろん僕も聞き逃すなんて馬鹿なことはしてない。

「へーえ、んな訳ない、ねえ。じゃあ好きってことでいいの?」
「んっなこと言ってねえだろ…!」
「王様は日本語もわからないの?否定の否定は肯定なんだよ、知ってる?」
「うるせえー!黙れ月島!」
「…じゃあやっぱ嫌いなんだ。あーあショックだなー、恋人にキス拒否られるとか、って、うわッ」


ちゅっ


突然左腕にかかる重みに体が傾いた。と、同時に眼前に王様の顔と、唇に柔らかい感触。
あ、キスされた。認識したのは王様が離れた後だった。


「ど、どーだよ。これでお前とき、き、キ……ス、すんの嫌いじゃねーって解っただろ!!」
「………」


うわー、超どや顔。耳まで赤くした王様に呆れて、ひとつ溜め息を吐く。それが気に入らなかったのか王様は眉を顰めた。
まあ、ね。証明できたことに変わりはないけど。


「…おい、月島?」
「…ヨクデキマシタネー」
「っ、頭撫でんな!つかなんだそのカタコト!」
「別に。あのさ、王様」
「あ?」
「……僕とのキスが嫌いじゃないってちゃんと証明したご褒美、あげるよ」
「は?、んむ、ぅ…!」


王様が口を開けた瞬間に8cm分屈んで、王様の下唇を甘く噛む。そうしたら次は僕らの舌を絡ませる。まるで唾液の交換のような口付けだけど、多分、これが、王様の一番好きなキスだと思う。

だってこの行為をしたあとの王様は、


「ん…ふ、う」
「…影山」
「ん…つき、しま」



目がトロンとして、すごく気持ちよさそうで、そしてすっごく扇情的な顔してる、から。



溶解する感情
(どっちかっていうと僕のご褒美かも)