中学3年のときに俺に似た後輩ができた。

人よりバレーが好きで、人より努力を重ねて、そうして人より上達して、上達した分だけ周りから少しずつ浮いていく。影山飛雄という後輩は、まさにそれだった。俺と違う点と言えば、ひとつは俺に余りある社交性が、彼には驚くほど無かったこと。

そしてもうひとつは、彼は天才であったこと、だった。

セッターとして才能を開花させてしまったがために、周りから突き放され、努力をしない人間からは分かりやすく疎まれた。
しかし一番の不幸はと言えば、飛雄自身が自らの才能に気付けていないことで。
自分ができるから、相手もできる。自分はこう考えているから、相手もきっと合わせてくれる。飛雄の高飛車な性格も相まって、無意識の天才はチームメイトを苦しめる。彼が築いているつもりだった「チーム」は、俺が引退する3日前に早くも崩壊の兆しを見せた。






「…わかんないんす。そこで跳べば最高のタイミングで撃つことができるだろうに、そこにいれば完璧なレシーブができるだろうに、あいつらは俺の思うところに居てくれない」

「トビオちゃんのイメージするところに居ないことが、理解できないの?」


だとしたら、それは傲慢だ。俺は横で膝を抱えて座る飛雄の黒髪を撫でながら言った。この後輩は俺が引退してからこうしてよく話をしに来る。
最近は皮肉たっぷりに王様だなんて呼ばれてるそうじゃない。そう言うと飛雄は瞬きを2回してから俯いた。「そうじゃないんです」


「何が?さっきの話の続きだけど、トビオちゃんの言い分はどう聞いても王様だよ。周りを見ているようで自分しか見ていない」

「だから、そうじゃなくて、」

「何が違うの?何がわからないの?天才のお前に」

「…例え俺があいつらより上手くプレー出来るっていっても、あいつらの技術なら、絶対俺の考えが再現できるはずなんです。傲慢とかじゃなくて、俺は信じてるんだ。

それなのに、その俺が居るせいで、あいつらの限界値を下げてる。

…ねえ、教えてください、及川さん」




もしかして、俺は、あのチームに不要ですか?




黒い瞳が、揺れた。

足りない青さ
(まるで懺悔のようだ)