「きみが言わなければ何もわからない」
新鮮な酸素を送り込まれて炎はますます青く鮮やかに燃え上がった。
「誰も真相は知らないのだから」
誰も聞いたことのない低い声でキースが言う。
ユーリは首を振った。
「それでも私は罪を告白する。裁きを受ける側にゆく。早くらくになりたいということだ」
「では私も共犯だ」
「あなたは何も関係がない。よい友人だ。いいや、面識のない、他人だったな」
「どうしてそう引き離そうとする」
並び立つふたりの人間は美しく爛れた関係だ。本人たちが告白しなければ誰も知らない。
「見つかる前に早くここから離れろ。そうして二度と私に近づかないことだ」
ユーリの言葉はキースを悲しませた。口を塞ぎたいと思った。悲しいことばかり言う彼を。喋らせたくない。舌を噛みちぎりたい。
「ユーリ、きみが悪者になるというのは、本当に似合わないし、おかしいと思うんだ」
朴訥な言葉にユーリは呆れた。相手の言い分をそっくりそのまま返してやりたかった。人気者の正義の味方が敵とねんごろになっているなんてとんだ茶番だ。
「ヒーローだろう。もうルナティックに関わるな」
「ユーリに関わってる。大事な人だから」
「去れ。他人どうしに戻るべきだ」
「……どうしてそう、悲しいことばかり言うんだろう」
このかわいらしい口はいつも私を悲しませる。
くちびるを指でなぞられるとユーリは何も言い返せなくなった。口が開かない、舌が動かなかった。
舌はもうないのかもしれない。一瞬のうちにすっぱりと切られしまったのかもしれない。かまいたちのように。
甘い血が溢れて止まらない。物足りない口の中に彼の唾液が注ぎ込まれた。
舌が触れ合っている。ああ、まだ切られてはいない。それでも、ここまできてしまったらもう意味のある言葉は話せない。



舌を切って差し上げる
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