覚悟は出来ていた。もう留めておくことはできなかった。どっちにしろ、4日前に美咲と別れてしまったのだから、もうじき彼女との友達という関係も、保てなくなることはわかっていたから。

 バイバイと、足早に教室を出ようとする彼女を呼び止める。俺と2人きりになるのを避けようとしているのがあからさまにわかって、心の奥で何かがぷちんと音を立てて崩れた。


「なぁ」
「…え、」
「好きだ」

彼女の作り笑いがみるみる凍りついていく。

「な、んで……っ、いや」
「南」

好きなんだ、そう言って、一歩ゆっくり近づくと、南は怯えた顔で退いた。

「無理だよ、だって、……っ、」

踵を返して走り出そうとする南の手を掴もうと手を伸ばす。ほんの少し指先が触れた瞬間、だった。

「い、やっ!」

薄暗い放課後の廊下に、ぱちんというその音は不気味なくらいに響いた。

「ごめ、…でも、嫌、無理。……なんで、」
「ずっと」

南の表情が、怯えから恐怖に変わる。分かっている、伝えてはいけないことくらい。それでも、もうあとには戻れない。

「ずっと、好きで」
「美咲は?美咲はどうなるの?だって―――先週」
「ずっと、好きだったんだ、南が。―美咲は、「嫌!」」


南が両手で耳を塞いで頭を振る。涙がぱたぱたと床に落ちた。

「聞かない、聞きたくない。木谷、ごめん、駄目だよ。私、美咲の友達でいたい。木谷よりずっと美咲が大事で、美咲が好きで――それだけは私は聞けない。ごめん、無理、嫌だ。……サイテイだよ、木谷」

 そう言ったあと弱々しく俺を睨んで、そのまま南は走って行った。一瞬俺を見た瞳には、見たことないほどの憎悪と困惑が詰め込まれていた。大きな目からぼろぼろとこぼれ落ちる涙が、頭に焼き付いて離れない。

それでも、好きだった。恋人の親友が、美咲の親友の南が、ずっと。


……サイテイだ。



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