「今日は、目も合わせて貰えなかった」
「まぁ、三上はそういう奴だから」
「しかも、部活さぼってたし。安田がユニフォーム着て前通ったのに」
「三上はそういう奴だからなぁ」

 放課後の教室で、3週間後に迫った文化祭の準備をしながら、同じ装飾係の里中の話を聞いていた。ほかのクラスメートは全員部活に行くか帰ってしまい、残っているのは俺達2人だけだった。

「本当は同じ装飾係なのに、来てないし」
「装飾係めんどいしなぁ。あいつはそういうこと率先して避けるから」

 里中が色紙を切り、俺がそれらを張り合わせて花の形にする。ピンク色の色紙にはさみが入れられていくのを、次のパーツが手渡されるのを待ちながら見ていた。

「本当、全然やる気ないじゃん。委員会も半分放棄だし、なんで三上はあんなんなの」
「なんでって、三上だからとしか言いようがないだろ、あいつの場合。ていうかさ、」

 里中の手の中で、色紙が綺麗に切り取られていく。彼女に聞いてみたいことがあった。

「里中は本当に三上のこと好きなの?」

里中の動きが一瞬ぴたりと止まり、俺のほうを見て言った。

「…好きよ?」
「ならもっとさ、こう、三上の好きなとことか言うもんじゃないの?」
「…普通は、そうかもね。でも、これはそういうのじゃないもん。好きなひとを好きでいることを、嫌いになる訓練なの」
「は?」

意味がわからなかった。三上が好きだ、けれど嫌いになりたいと、彼女は言った。理解不能だと言う表情をする俺に、里中は少し俯いて説明した。

「例えばね、今、井坂にこんなこと話してるのは、井坂が三上の友達だから」
「うん、相談だったら普通そうするよね」
「でも、それは協力してほしいからとかじゃなくて、三上には話しかけられないのに井坂とは楽しく話せる自分を認識するためっていうか…そういうの、好きってことと矛盾してる気が、私はするの。上手く言えないんだけど」

あぁそういうことだったのか。一番初めに里中とこういう話になったときに頼まれた。“三上に何か聞いたり、私と近付けたり、そういうことはしなくていいから、むしろしないでくれ”と。そのときは、どういうことなのか全く理解できなかった。

「嫌なとこ探しも、馬鹿みたいに上手くなった。嫌いだ、嫌いだって思うのも」
「それ、なんか意味あるのか?嫌いになってどうするんだ」
「三上を嫌いになりたいんじゃないもん。恋してる自分っていうのが、すごく嫌で、怖いの。だから、恋することを嫌いになりたいの」

 それから、里中は哀しい目をした真顔で言った。

「それが悲しいことなのか、良いことなのかも、もう分かんないよ。だけど、私はこれ以上変われないから仕方ないの。」

里中は、分の恋を汚いと主張する。ほんの少し臆病で脆いだけなのに。灰色の言葉ばかりがつらつらと並べられていって、こんなに綺麗な恋なのに、里中は馬鹿だと思った。



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -