彼氏が親友と浮気をした。正確に言うならば、私は彼氏を親友に寝取られたというわけだ。


「まぁ、仕方ないよね」
「うん、悪かった」
「悪いことしたって自覚あるなら良いよ」
「あるある、まじ悪かったよ」

そいつの家から歩いて1分、いつものカフェのいつもの席、いつもの時間に私達は座っていた。私はいつものカフェオレをストローですすり、男はいつもと違うブレンドのコーヒーを、最後の一口を残して置いていた。

「飲まないの?」
「ああ、やっぱ合わなくて、さ」
「ふうん」

マスターを気にしながら、小さな声で苦笑いを浮かべて囁いた。見慣れた笑顔。私は結局、男の他の表情をまともに見ることはできなかった。がたっという音ではっとして顔を上げると、男が立ち上がろうとしているところだった。

「じゃあ、またな。もう会うこともないかもしれないけど」

目の前にいる男はそう言って立ち上がり、伝票を持ってコートを着た。

「うん、まぁ、元気でね。あ、お会計」

どちらも上京者の私達のルールは割り勘だった。財布を取り出そうとかばんに手を伸ばすと、男の財布が私の頭を軽く叩いた。

「最後くらいおごるよ。悪いことしちまった償いってことで」
「そうね、じゃあ、ごちそうさま」

いいえー、男は笑ってそう言い、お会計をして、後ろ手に手を振って去っていった。

親友とは親友でなくなってしまい、恋人とも恋人でなくなってしまって、その上結局親友と恋人も恋人同士にはならなかった。それから残ったのは、古びたカフェの木の匂いと、いつものコーヒーの匂い、そしてあと一口のコーヒー。最後の一口のカフェオレが、ずずっと音を立てて私の中に消えていった。



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