えっ、ちょっ、ちょっと待って!え、なんで、その子誰?待ってよ、ねぇ、振り向きもしないの?聞こえてないの?なんで追い付けないの?だいたいここはどこ?助けて、待って、ねぇ矢永!矢永、矢永、こっち向いてよ、矢永ってば!


 と叫んだ所で目が覚めた。あぁ、夢か。訳の分からない夢だった。ていうか、展開が漫画みたいだな。夢の中で叫んで目が覚めるって本当にあるんだ。

「どうしたの、ぼおっとして」

声の主を探して横を向くと、ベッドにもたれて雑誌を読んでいる矢永が見えた。

「…悪い夢みた」

矢永のふわふわした後ろ髪を見て、やはり夢だったのだと安心した。後ろから矢永に抱き着くと、後ろ手に頭を撫でられた。

「よしよし、怖かったねー。ところで、それにしてもよく寝てたよ。時間大丈夫なの?」

矢永に言われて壁にかかった時計を見ると、針は6時半を指していた。

「やばいやばいやばい!ちょっと、なんで起こしてくれないのー!」

慌ててコートを着てマフラーを巻き、帰る準備をした。

「いや、よく寝てたからさ、いい夢見てるとこ起こしちゃ悪いかと」
「だから悪い夢見てたんだってば!!」
「そっか、悪い。送ってくよ」

矢永はひょいと私の手からかばんを奪い去り、自分はネックウォーマーをつけてドアを開けた。



「さっむ〜」
「いやぁ、まじで寒いな。送ってくとか言わなきゃ良かったかも」

むっとして足を軽く蹴ると、悪い悪いと笑って手を差し出したので許してあげることにした。まだ6時半なのに真冬の夕方は真っ暗で、そんな中を手を繋いで歩くなんてドラマみたいだと思った。矢永の熱で、体がふわふわする。雲の上を歩くって、こういうことを言うんだ。そんな思いに浸っていると、近道の公園の真ん中で、突然矢永が立ち止まって周りを見渡した。

「どしたの?」
「…なぁ、ちゅーしていい?」
「ぶっ…」
「ちょ、何で笑うの!?」

思わず吹き出すと、赤い顔した矢永が見えて、余計に笑ってしまった。

「だって、周り確かめて、キスする気まんまんなんだもん!」
「健全な男子なら当たり前っしょ。で、いいですか、本町さん?」
「あー、おもしろ!いいよ、もう。断れません」

そう言うと、矢永は嬉しそうに笑って私の頭をわしゃわしゃと撫でた。

「でも、門限7時だから早くしてね」

あんまり矢永が嬉しそうに笑うので、こっちが恥ずかしくなって照れ隠しにそんなことを言ってしまった。



 矢永が私の肩に手を置く。矢永の腰のあたりのコートを掴んで上を向くと、綺麗に鼻筋の通った矢永の鼻が見えた。このキスが終わったら、手を繋いで今日の夢の話をしよう。矢永の手の熱があれば、あんな夢はきっともう見ない。そんなことを思いながら、ゆっくりと目を閉じた。




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