小説 | ナノ







「ねえ、キスして」

「………な、何を」

「だから、私…真田くんとキスしたいの!」





同級生の真田くんとお付き合いしてから半年が過ぎた。最初は照れ臭くて顔すらちゃんと見れなかったけど少しずつ距離が縮まってきたように思う。付き合って一ヶ月で初めて手を繋いで、三ヶ月でやっと抱きしめてくれた。だけどそれからは何も進展はなくて不安が重なっていった。焦っているだなんて認めたくない、でも、触れたいって思うのは私だけなのだろうか?

彼がそこにいるだけで心臓の奥が狭くなって、どうしようもなくなる。想いは同等ではないことくらい知っているけど、もしかして私に魅力ってものを感じてくれていないんだろうかなんて考えると悲しくて。そ、そりゃ、特に美少女ってわけでもないけど!…それでも恋人には可愛いって思われたい、それが女心というやつだ。





さて、「大切な話があるの」と言ったら連れて来てくれた真田くんの部屋に二人きり。何故かお互いに向き合って正座して、一息ついてから「キスしたい」発言をしてみたわけだけど、当の真田くんは覚悟を決めたような顔から一変して耳まで真っ赤になった。言葉が出て来ないらしく、はくはくと唇を動かしている。





「…真田くん?」

「お、お前は、急に、何を…!」

「え、だから、キスがしたいんだけど…」

「く、口付けなど…たるんどる!…大切な話だと言うから俺はてっきり…」

「ちょ…とりあえず落ち着いて!」





今にも叫び出してしまいそうな真田くんにそう声をかけたら、額に手を当てながら黙り込んでしまった。一体どうしたのだろう。ていうか、キスのこと口付けって言う人初めて見た。色々言いたいことはあったけど、きっとすぐに自分が思っていることを説明してくれるという確信があったから、まだまだ赤いその顔をじっと見つめる。





「急に話などと言い出すから」

「うん」

「別れを切り出されるのではないかと思ったのだ」

「……え、ええっ?なんでそんなこと」

「俺は器用な方ではないし、お前に気の利いた言葉一つ掛けてやれん。部活で、構ってやれぬ時間だって多いだろう。思い当たる理由なら数えきれんほど出てくる」





今度は私が驚く番だ。私の知らない所で彼がそんな風に思っていたなんて知らなかった。不器用だってことは付き合う前からわかっていたし、硬派で真っ直ぐで、自分の決めた道を突き進む姿に私は惹かれたのに。でも誤解してあんな神妙な顔を浮かべていたのかと思うと何だかとても面白い。なんだ、不安になってくれるくらいには愛されてるんだ。思わず笑ったら真田くんの眉間のしわが深くなった。





「笑うのをやめんか!」

「…だ、だってなんかおかしくて…私、真田くんのこと大好きだから自分から別れなんて言わないよ?」

「む……。」





私がそう伝えたら、組まれていた腕が解けて眉間のシワが少しだけ消えた。きっと他の人にはわからないのだろうけど、安心したとでも言いたげな穏やかな表情。そう思っていたら大きな二本の手に両肩をぎゅっと掴まれたから驚いてバッと顔を上げたら、私を見つめる真っ直ぐすぎる瞳に心臓を持っていかれそうになる。 一体どうしちゃったの?





「…瞼を閉じてくれ」

「え?」

「口付けを交わしたいと言ったのはお前だろう」

「あ、え、う、うん…!」





ああどうしよう!告げられた言葉に反応した心臓がうるさいくらいに高鳴って、ついでに一気に熱が全身を駆け抜ける。ものすごく恥ずかしいけど、やっぱり嬉しい。ぎゅううう、と未だかつてないくらいに力をこめて目を瞑った。思わず握った拳には、軽く汗までかいてしまっている。





「……いくぞ」

「………!」

「………。」

「………………さ、真田くん?」






いくら待っても唇に触れる感触はなく、目を開けたらそこには私の肩に手を置いて、その真っ赤になった顔を近付けたまま硬直している真田くんの姿があった。あまりに恥ずかしかったのか目が合った瞬間に視線を逸らされる。あれれ可笑しいな、普通は女の子の方がこういう反応するものじゃなかったっけ。

それでもお互いの息がかかるくらいの距離、きっとあと少し。私は何も言わずにもう一回目を閉じてあげた。肩に置かれた大きな手が、ピクリと動く。そして小さな、消えかけの低い声で発せられた言葉が耳をくすぐった。





「好きだ。」

「………んっ」

「……。」





音もなく静かに重ねられた唇は想像していたよりずっと柔らかくて腰の奥がきゅんと疼く。喉からよくわからない声が漏れたのは自分でもびっくりした。こんなに幸せな気持ちで初めてのキスを体験出来た私はすごく幸せ者。よく初キスはレモンの味だとか言うけど、ほんの一瞬の出来事すぎて全然わからなかった。

唇が離れてすぐ、真田くんの両手が私の肩から離れて片方の手で真っ赤になっていた顔を隠してしまった。もっと見てたいから残念だが、そんなことを言える余裕は今の私にはない。真田くんとキス出来たという事実が、まだまだ形をなすことなくふわふわと宙を漂っている。





「…初キス、しちゃったね、真田くん」

「うむ…、ま、満足か?」

「満足じゃないって言ったら、…また、してくれるの…?」

「なっ…!」

「冗談。…嬉しいよ。すっごくドキドキしてる」





素直な思いを伝えたらまた視線を逸らされて、そのあとしばらくしてからぽつりと「その、また、させてくれ」だなんて呟かれた。あーあ、きっと今日は幸せすぎて眠れないんだろう。キスってこんなにドキドキ出来て、色んな感情がどばどば湧き出てくるものなんだ。やっぱり真田くんとで、良かった。






(好きの隙間にキス)





唇だけじゃなくて本当は全部真田くんにあげたいだなんて、今はまだ言えない言葉だけど。(いつかは、きっと。)





END



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