小説 | ナノ




※高校生設定
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ああ、空が青い。

久しぶりに二人の予定が重なった日曜日、今日は中等部の時から恋人である雅治と付き合ってニ年の記念日だ。そうは言っても特別に何かロマンチックなことをするわけではなく近所の程よい広さの公園のベンチに並んで座っているだけ。中途半端に生温い風を感じながら、定位置になったこの距離でいつもの通り、緩やかな会話を楽しんでいた。





「ニ年かー。早かったねー…」

「そうじゃな」

「正直雅治とこんなに続くと思わなかった」

「お前さんは相変わらずハッキリ言うのう…」





だって本当でしょ。言葉を飲み込んで適当な笑顔を返した。あの頃、テニス部の中でも目立ってた雅治と付き合うことになって相当浮かれてたけど、どうせすぐに捨てられてしまうんだろうって気持ちはいつも隣にあった。二人の間にはそんな気持ちが絶えず存在していたから距離が生じていた。いつからだろう、そんな気持ちが少しずつ小さくなって彼との隔たりがなくなったのは。今はすぐ近くにいるのが当たり前で、いないと違和感すらある。

そしてそれは他人の目にも見える形で表面化してきているらしい。





「そういえば昨日、また雅治と私って似てるねって言われた」

「似とらん」

「うん、私もそう思う…けど」

「けど?」

「よく考えてみたら、雅治が好きなものは私も好きになった気がする」





強いられたわけでもなく、無理をしたわけでもなくひとつひとつ自然に私の世界は雅治と同化しているように思う。それは私にとっても心地好いことで、そんな自分は嫌いではない。空を見上げることが多くなったり人間をよく観察するようになったり。相手に感化されて自分を失うことは良くないと思うけれど、失ったわけではなくて新たな視点が増えただけ。

雅治もそうであればいい、何かを分け合えているのなら嬉しい。自然に伸びてきた大きな手に自分の手を重ねて、ふと空を見上げたら妙な形の雲を見つけた。





「見てー、あの雲、なんか雅治みたい!尻尾もついてるし!」

「俺の髪は尻尾じゃなか」

「えー?尻尾だよ、うん。空見るのってやっぱり楽しいね!」

「……。」





ゴムで束ねてある雅治の髪の毛を親指っ人差し指で引っ張って遊びながら言えば何か言いたげな瞳と真っ直ぐ目が合う。首を傾げてみせれば大きな手でぐしゃりと髪を撫でられた。撫でて貰うのは嫌いではないけれど一生懸命整えてきた髪型が崩れてしまう。恨めしげに彼を見つめたら、プッという笑い声が聞こえてくる。何がそんなに可笑しいの?





「人は変わるモンじゃの」

「…え?」

「昔は俺が空を見とるとよく怒っとったぜよ」

「そ、そうだっけ」

「私と空、どっちが大切なの?って涙目で言われた時はどうしようかと」

「うわあああああ!忘れて!黒歴史!あの頃私は若かった!」





自分の恥ずかしい過去を思い出してしまって、いたたまれなくなる。そんな頃もあった。緊張で会話が続かなくて、雅治が空を見上げるたびに私の隣ではないどこかへ行ってしまうのかもしれないと思っていたあの頃。今ならわかる。お互いに緊張していただけだったのだ。あんなに怖かった沈黙も今となっては特に気にならないものに変化した。きっとそんなものなのだろう。

にやにやしている彼を軽く睨みつけたら、さっきより嬉しそうに笑った。私はこの柔らかい笑顔にとことん弱い。表現方法が変わっても愛の形が少しずつ優しいものになっても、一番大切な所は揺らがない。一緒にいたいという感情がここに存在する限り、私は今日も明日も何度でも目の前の男に恋をする。





「…ねー、いつか私達、区別がつかないくらい似てくるのかな?」

「気持ち悪いナリ」

「んー、でもさ、たまにだけど、いっそ一つの個体になれたら良いのにな…って思う」





だってそうしたら、今まで以上の時間を共有出来るはず。一緒に起きて同じものを見て何かに感動もして、夜になれば同じタイミングで眠れる。全てをわかり合えたらどんなに楽なんだろうと喧嘩のたびに考えてきたはず。我ながらロマンチックな考え。

ああ、でもそうしたら話す必要もなくなって、同じことを思う喜びだとか、伝える楽しさを経験出来なくなってしまう。それはつまらない。「冗談だよ」という言葉を口に出そうと思ったら、手の平に彼の大きなそれを重ねられた。





「…そんなんになったら抱きしめることすら出来ん、このままが良いぜよ」

「……う、ん…」

「あー…、これから俺の家に来んか?」

「え、いいけど…」

「お前さんが可愛いことばっか言うから我慢出来そうにない」






言葉の意味を理解して赤面すると同時に、一足早く立ち上がった彼が手を差し延べてくる。狡いな、こうされたらその手を取らないわけにはいかないじゃないか。だけど嫌じゃない。手を重ねた瞬間に小さな声で「二年、おめでとさん」なんて言うから嬉しくなって口元がにやけた。

この二年、擦れ違いも喧嘩も沢山あったけれど今日という日を隣で迎えられたこと、これからも一緒にいれることに精一杯の感謝を贈ろう。







(一面広がるブルースカイ)




そして明日からも、この空の下を二人で。




END



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