小説 | ナノ






私が好きになってしまった男の子は、年下で豪快で純粋で。何度も諦めようとしたけれど、屈託のない笑顔を見る度にやっぱり好きだって重い知らされる羽目になった。好きで好きで苦しい、触りたい。でもそんな思いで触れてしまえば最後、もう「優しいお姉さん」ではいられない気がして。募っていくのは押さえきれない焦燥感と罪悪感。馬鹿だな、どんどん切なくなるだけだってわかっているのに。

それならもういっそのこと、きっぱりと離れてしまえば楽かもしれない。この子の笑顔なんてもう見えないような場所へ行ってしまえたのなら、時間が全てを思い出にしてくれる?





「ねぇ金ちゃん、私がいなくなったら寂しい?」

「え?何や、ねーちゃんいなくなってしまうん?」

「んー、もしもの話」





緑の多い公園のベンチ、隣で満面の笑顔を浮かべながら買ったばかりのタコ焼きを頬ばっていた金ちゃんがその手を止めてこちらを見る。冗談ではないことを何となく察したのか、いつもより真剣な表情。小さく笑顔を向けたら、その表情が一気に悲しみに傾く。ああ、やっぱり可愛い。だからこそ私なんかが隣にいてはいけないのだと思う。同年代の子と普通に恋愛をして少しずつ成長していくのが、金ちゃんにとっても良いはずだ。少なくとも欲の塊のような感情しかあげられない私よりは、ずっと。





「ワイ、ねーちゃんと離れんの嫌や!なあなあ、行かんといて!」

「…それは、どうして?」

「そんなん当たり前やん!ねーちゃんがおらな、寂しゅうてかなわん!」

「……そっかぁ」





彼にとっての当たり前を打ち砕く、私のこの思い。それを知らずに真っ直ぐに信頼を寄せて貰っていることを再度確認してしまって余計に心が締め付けられた。ごめん、ごめんね。途方もない謝罪は頭の中でぐるぐると回って鼻の奥をツンとさせる。気が付いたらわけもわからず視界が歪んでいた。ああ、次に瞬きをしたら絶対に涙が落ちちゃう。隠さないと。

下を向いて、耳にかけていた髪を下ろして涙なんて見えないようにする。きっと大丈夫、気付いてないはず。だって金ちゃんだもん、またタコ焼きに夢中になっているにちがいない。そう思っていたのに両頬を、隠した髪の上からぐっと挟み込まれた。いつの間にか、私の向かいに立っていることに、涙の熱で浮された頭でただただ驚く。





「顔上げぇや」

「…ごめん金ちゃん、ちょっと今、化粧とか大変なことになってるから、それは無理かな」

「気にせんでええわそんなん!…なんで泣いとるん?ワイ、なんか言うた?」

「ううん、大丈夫…」

「じゃあ顔上げぇや!」





力が込められて、無理矢理頭を上げさせられる。嫌だなぁ、化粧やらなんやらでどうしようもなくなっている顔、見られたくなかったのに。必死に目を合わせようとしても次々と流れてくる涙で視界の全てが歪む。金ちゃんの可愛い顔すら見えない。こんな時にまでこんなことを考えてるのはもうきっと重症、例え離れたって恋しくなるだけ。当然のことに今更気付いてしまった。

どうしようもない事実に、また涙が溢れてくる。泣くのなんて久しぶりすぎて、どうやら止め方を忘れてしまった様だ。そしたら次の瞬間、「ねーちゃん」といういつも通りの言葉と共に目の少し下に、なんだか慣れない感触。何をしているのか理解する前に、くすぐったくて生暖かいそれは頬へ移動した。





「しょっぱいわぁ!」

「あ……え?」

「なあなあ、泣かんといてぇや!ねーちゃんが泣いとったら嫌や、心臓の奥が痛くなんねん……。」





さも自然に出された感想に、金ちゃんに舐められたことをやっと理解した。血液が沸騰しそうなくらいに体中に熱がまわってどうにかなってしまいそう。驚きすぎて止まった涙、ぐしっと服の袖で拭き取れば視界いっぱいに彼の姿が映る。見たこともないくらいに真剣な、「男」の表情。おかしいな、ずっと見てきたはずなのに。こんな彼は初めてだ。





「…ついでにどっか遠いとこに行くんも嫌や、ワイはずーっとねーちゃんとおりたい!」

「……そんなこと言われたら、本当に離れられなくなっちゃいそう」

「え、ほんまに!?ええで、ほな結婚しようや!」

「……うん?」





くるくる変わる表情に、心臓がついていかない。結婚、か。きっと意味を良く理解していないんだろうなぁ。けれど嬉しそうに私の手を握ってぶんぶんと振る金ちゃんを見ていたらそんなことはどうでも良くなってきて、小指と小指を絡めて交わす約束。この行為は何か未来に影響するような力を持つのかな、こんなに純粋な金ちゃんを私が独占しても良いのかな。もしそうだったのなら、すごく嬉しいのに。





「大好きやでー!」

「金ちゃん……。」




私も、という言葉は結局音にならず、息として吐き出されて空気に溶けた。待とうじゃないか、私と彼の年齢差を阻む言葉の壁が全て壊れる時が来るまで。だって反則でしょ、こんなに無邪気に好意を真っ直ぐぶつけられたら縛られるしかないじゃない。ああもう本当に末恐ろしい。でもそんな彼に、どうしようもないくらいに恋してしまっている。






(言葉で埋めてよ)





諦められない、私より高いこの体温を、手放すことなんて出来やしない。目を閉じたら下まつげに溜まっていた、もう冷え切った涙がぽたりと落ちた。





END

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あーるさんへ!



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