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※高校生設定

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俺は幸村達と共に高校へと進学し、今度こそ立海を三連覇へ導くことを誓って練習に励む毎日を送っている。そして不思議な再会を果たした彼女も、狭き門を見事に抜けて立海へ入学してきた。練習が忙しいゆえあまり一緒には居られないが、それでもたまの休日には様々な場所へ出掛けてみたりと、充実した関係を続けている。それだけで良い、このままこの関係が続けば良いと俺は常々心から思っているわけだが、それではいけないらしい。何故か今現在、幸村が腕を組みながら鋭い口調で容赦なく俺を責め立てている。





「ねえ真田どういうことなの?さっきあの子に、まだ付き合っていないとかいう馬鹿なことを聞いたんだけど。まさか事実なわけがないよね?だってお前らどう考えても両思いだろ、漂う雰囲気はもはや老夫婦だろ、ありえないよね?」

「ゆ、幸村…その話は真だ。あいつは嘘を吐くような人間ではない」

「は?真田…お前ヘタレにも程があるよ。好きなんだろ?彼女のこと」





帽子の鍔をぐい、と下げてから短く「ああ」とだけ返した。幸村には借りがある故、隠し事は出来ぬ。その後もその状況は続いたが、途中で思いついたように携帯を取り出してこそこそと何かを言っている。そして有無を言わせない迫力で「逃げるなよ」と念を押してから教室を出ていく。一体次には何が起こると言うのか。展開に着いていけていないことを自覚しながらも呆然と立ち尽くしていることしか出来ぬ。そしてそんな時に、頭に過ぎるのは決まって彼女のこと。


ああそうか、俺は恐れているのだ。言葉にしてしまえばそれは事実となり、今ある関係も崩れてしまうという可能もあるだろう。だがこの先の未来も共にあることを望むのならば、目に見える約束が必要となるのかもしれない。あの日、再会を果たした昔馴染みは長い時を経て、俺が何より守りたい存在になっていた。ならばその旨、腹を括って伝えてみせよう。





「…弦一郎くん?」

「ぬ…?い、いつからそこにいたのだ!」

「え、今来たんだけど気付かなかった?…で、私に何か用事だった?幸村くんが急いで行けって言ってたけど…」

「…ああ、お前に、大切な話がある」





そう言い真っ直ぐに瞳を見据えると、彼女の視線もまた、真っ直ぐ俺を捕らえた。誰もいない教室。空気を吸い込めば今まで震えたことなどなかった喉が震え上がる。怖じ気付いているというのか?この俺が?俄かには信じ難いが事実ならば仕方ない。皇帝などと呼ばれていても、所詮俺も一人の漢だ。視線を落とすと、無意識に握っていたらしい拳にくっきりと爪痕が残ってしまっていた。それでも、口に出さねば伝わらぬこともあるのだろう。もう一度深く息を吸った。





「…お前とは随分長くの時間を共にした。だが、まだ一度も伝えられずずにいたことがある」

「……。」

「俺は、お前のことが好きだ。これからも共に歩みたいと思っている。だから、お前さえ良ければ付き合って貰えないだろうか」

「あ……」





不甲斐無い話だが、彼女の表情を窺うことが耐えられなくなり、視線を下へ落とす。沈黙に響くのは悪戯に高鳴る心臓だけ。彼女に再会するまでは色恋などという戯れ事などには微塵も興味などなかったはずなのに、この様は何だ。全く、俺が一番たるんどる。

あまりに長い沈黙に耐え切れず、恐る恐る顔を上げれば何故か大粒の涙をぼたぼたと流している彼女の姿が瞳に映った。どうして泣いているのか俺には見当すらつかぬ。そしてどんな行動をしてやれば良いかすら。冷や汗などというものが出るのは初めてかもしれない。立ち竦むしか出来ない己を、今は只管に悔しく思った。だが、それでももう離したくはない。





「ど、どうしたと言うのだ、どこか痛むのか?」

「違うよ…げ、弦一郎くんが…」

「ぬ…?」

「そんな言葉聞けないって、それでも弦一郎くんが迷惑じゃなければ傍にいようって、…告白なんて、諦めてたのに…」





尚も止まない涙。大丈夫か、と声を掛ければ不意に彼女が幸せそうに柔らかく笑う。泣き笑いとは器用だな。そんな俺の思考は置いてきぼりに彼女の小さな手の平が俺の拳に重なった。知らぬ内に随分と無理をさせていたらしい。そう思えば心臓の奥が突かれたような心地に陥る。恐る恐る小さな体を抱き寄せれば緊張したように彼女の体が強張った。経験したことなどあるはずはない柔らかな感触。鼓動はもはや早鐘と化している。





「好き、好きだよ…。私、彼女になっていいの?」

「無論だ、お前以外の誰がいる?」

「どうしよう、すごく嬉しい…」

「む……そ、そうか。」





幸せが滲み出る声色につられて俺も自然と表情が緩む。緊張と安堵が入り乱れた妙な感覚に浮かされて、体中を支配している熱。それを振り払うように抱きしめていた腕を緩める。目を合わせるのすら気恥ずかしくなり傍にあった机に視線を合わせている俺を見て、彼女は至極楽しそうに「耳まで真っ赤だよ」と言った。





(告白日/それは、やっと辿り着いた二人の新しい関係)




願えるのならば、これからも共に。




END



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