「仁王くん、好きです」
「…お前さんそれ何度目の告白じゃ」
「覚えてないよ!3桁を超えたあたりで数えるの諦めた」
「…懸命じゃな」
呆れ果てたような顔で、大きな右手で自分の顔を半分くらい覆う仁王くんは私の好きな人だ。何度も何度も告白しては玉砕して、もはや最近は告白が挨拶のかわりのようなノリになっている。でもこっそりクラスメイトの丸井くんが、「仁王は本当に嫌だったら姿をくらますことなんて造作もねぇよ」って教えてくれたから、このままでも構わないらしい。微妙な距離感、別に構わないけれど。
「で?今日はどんな言葉で振られるの?」
「…今考えとる所よ、ちょっと待っときんしゃい」
「待ち時間が暇です」
「堪え性がないのう」
仕方ないから今まで言われたことを思い出してみる。今はテニスに集中したいから、寂しい思いをさせるから、飽きっぽい性格だから、めんどくさいから。実は人間じゃないから、というとんでもない理由もあった。その度に打開策を打ち出しているわけだけど、本音を言うとそれが中々楽しいから多くは望んじゃいない、ただこんな時間がこれからも続いていくのを願うだけ。
思い返してみると、そういえば一度も仁王くんは私自身を否定する言葉を言っていない。さすがの私も「嫌い」だとか言われたらそれなりに諦め切れると思うんだけどなぁ。
「…お前さんは」
「はい?」
「俺のどこが、そんなに好きなんじゃ?」
「え、全部だよそんなの。何を今更?」
「具体的に」
「うーん…一人で生きてるように見せかけて寂しがり屋な所とか、色んなことを楽しもうとしてる所とか…クールに見えてお茶目だったり、へたれだったり。あとは…そうだなぁ、何だかんだ言って私を心から拒絶したりしない所?結局は優しいよね。」
本当はまだまだあるんだけど、かい摘まんで言うとそんなかんじ。若干長かったから、一息で言うと少し苦しかったかな。一方それを聞いた仁王くんは今まで見たことがないくらい驚いた顔をしていた。え、なにそれ面白い、写メってもいいかな。いや、やっぱりやめとこう。逆に折り曲げられる気がする。携帯は大事だ。
「…顔だとか身長だとか、そんなんを言われるモンだと思っとったぜよ」
「あー…、顔とか身長もまあ、好きだよ?…んー、でも顔だけだったら真田くんの方が好みかも」
「ちょ…待ちんしゃい、なんでよりによって真田なんじゃ!色々とおかしいじゃろ!」
「えー?みんななんであの魅力がわかんないの?」
今の仁王くんは焦ったような表情をしている。今日は見たことがなかった表情を沢山見ることが出来たからなんだか嬉しくてたまらない。真田くんの外見が好みっていうのは本当だけど、一緒にいて「好きだなぁ」と思えるのは仁王くんだけ。今だって心臓がドキドキうるさい。やっぱり特別ってやつなんだろう。
「…妙なことばっかり言いよるから、断る口実が全然出てこないナリ…」
「えー、頑張ってよー」
「それをお前さんが言うんか」
「強がりですが何か?」
キリッとした表情で仁王くんに向き直ると、一瞬真顔になった後に、どこか寂しそうに柔らかく笑った。何かを企んでいそうな笑顔は沢山見てきたけど、こんな顔は初めてだ。今日は、本当に色々と珍しい。もしかして具合でも悪いのかな、それなら私に構ってくれる必要なんてなかったのに。
「…そろそろ、腹を括る頃合いかのう」
伸びてきた手に驚いて、変な力が体中に働いた。大きな手はそのままくしゃりと私の髪を撫でていく。そんな超展開に思考が着いていくはずもなくて、ただ呆然と目を見開く私の視界の隅ではただただ銀色が光に反射して綺麗に輝いていた。脈絡だとか流れって、こんなに簡単に崩されてしまうものだったっけ。
「…降参じゃ」
「え?」
「付き合うてもええよ、お前さんとおったら退屈しなさそうだしのう」
「え、え、え、あの、さっぱり事態が把握出来ないんですけど」
「こういうことぜよ」
夢にまで見た仁王くんの腕の中に私はいた。思わず青空をイメージするような匂いに包まれて、余計に思考が麻痺してくる。すき、しあわせ、うれしい。曖昧なそれらしか、もはや浮かんで来ない。何回目か忘れたなんて嘘だよ、毎回全力でぶつかっているんだから本当はちゃんと覚えてる。
「…137回目の告白は成功じゃな、おめでとさん」
(嘯き続けたペテン師)
覚えていてくれたんだ。それが嬉しくてたまらなくて、この瞬間から「彼氏」となった仁王くんの腕の中で小さく「ありがとう」を伝えた。
END