小説 | ナノ







平均よりも随分と大きな図体で私のベッドを占領する彼氏とは、中学生の時に知り合って高校生の時に晴れて恋人となって、そして今日に至る。放浪癖にさえ目を瞑ればとても良い恋人だと言えるし、彼が私を大切に思ってくれているのが伝わっているから大きな不満はない。



けれど最近、少し気になることがあるのだ。彼はよく一人暮らしの私の家に遊びに来て、二人でゆっくりとした時間を過ごしている。だけど付き合って随分経つのに私達の仲は依然としてプラトニック。抱き合ってキスをして、でもその先は一切ない。正直に言うと、年頃の男女なのだからそれが正常ではないことくらいわかっている。

付き合って長くても私は未だに何かあるたびに彼にドキドキする、だけど彼はどうなのだろう。手を出してこないのは、そういう対象として私を見れなくなってしまったからなのだろうか。彼と夕食を食べた後、テレビを見ながらそんなことをぼんやり考えていたら、ふと彼が立ち上がった。




「もう10時ば過ぎたとね、そろそろ帰るたい」

「え…」

「…どうかしたと?」




いつも、会って体温に触れた日の夜は一人で眠るのがどうしようもなく寂しくて物足りない。そんなことを彼は知らないのだろうけれど、やっぱり少し悲しくなった。千里がここに泊まっていったことなど一度もない。前に、遠回しに泊まっても良いと言ってみたら困ったように笑って頭を撫でられたことを思い出す。あれは一体どういう意味だったのだろう。


わからなくて、でも帰ってほしくなくて千里の服の裾を掴む。私の行動の真意が汲み取れないのか、彼の表情には疑問符が浮かんでいた。そうだ、言葉にしなければいつまでたっても伝わらない。




「…あのね、今夜は、帰らないでほしい」

「……。」




言えた。恐る恐る顔を上げて千里の顔を見ると、そこにはびっくりするほど真剣な表情。一瞬怒っているのではないかと思ってドキリとした。視線を絡ませたら、彼の手が私の体を抱き寄せる。いつもと同じ様に、私はいとも簡単に大きな体に包まれた。




「せ、千里…?」

「…それ、意味わかって言っとうと?」

「…う、ん…」

「俺、もう我慢せんでよか…?」

「我慢?」




聞き返したら、痛いくらいに強く強く抱きしめられた。心なしか千里の体が熱い。耳元にかかる息がくすぐったくて身をよじるけれど逃がしてくれやしなかった。明らかに様子がおかしいことを察した私は状況が飲み込めずにただ慌てるだけ。さて、どうしたら良いのだろう。とりあえず好きな人にこんな風に抱きしめられたら、反射のように心臓の鼓動が速まってしまって冷静な判断が出来ない。




「…止めんなら、今が最後たい」

「……?」

「嫌われんのが怖か、足踏みしとったばってん…煽ったのはお前さんばい」

「あお…?う、うん?」

「ほんなこつ、泊まっていってよかと?」




何がなんだかわからないまま、こくんと頷くと千里はこれ以上ないくらいの甘ったるい声で「好ぃとぅよ」なんて囁いて私をひょい、と持ち上げて慣れた足取りでベッドまで運んで、私の上に覆い被さった。重ねられた掌が温かくて、近すぎる距離感にくらり、目眩が起きる。




「…心配せんでも優しくすったい、力抜きなっせ」

「お、お願いします…」




それはもう至極嬉しそうな声色で綺麗に笑う彼はまるで獣みたいに目をギラギラとさせていて、ああもう逃げ場なんてどこにもないなぁと、沢山のキスで蕩けさせられた思考の隅でぼんやりと思う。相手が千里だから最初から逃げる気なんてないし、これが私の望んだことだけどやっぱり少しだけ怖い。でもそれ以上に、嬉しい。




「…むぞらしかね」

「な、なんでそんなに落ち着いてるの…」

「落ち着いとる?俺が?そんな風に見えっとね?」

「うん」

「……余裕なんてなかとよ…」





重ねていた右手をひょいと彼の心臓へと移動させると、掌からダイレクトに鼓動が伝わってきた。どくん、どくんと私と同じか、もしくはそれ以上の速さで鳴るそれを感じて笑顔が込み上げる。なんだ、一緒なのか。少しだけ緊張の糸が解けた気がして、どちらからともなく唇同士のキスをした。二人ぶんの重さでベッドのスプリングが軋む。

さて、これから先は初めてのお楽しみ。彼からのキスの嵐を色んなところに受けながら、私は瞳を閉じた。





(ゆらりゆれる夜)





愛してるから、隙間なんてなくして全部に触れて。



END


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千歳への恋のお題:「今夜は帰らないで」



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