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ふに、と唇と唇が何秒かくっついて、離れていく感触にゆっくりと瞼を開ける。付き合ってから、これで5回目のキスだ。目の前では深司くんがジッと私の顔を覗き込んでいた。こんなに近い距離で目が合うのは初めてで、きゅうんと胸の奥が狭くなる。




「深司くん、もしかして目、閉じなかったの…?」

「え?うん、そうだけど何?」

「…恥ずかしい」

「なんで?」

「恥ずかしいものは恥ずかしいの!だって、私がどんな顔でキスしてたか見たんでしょ…?」

「見てたけど」




あっけからんと、むしろそれがどうかした?と言わんばかりの表情で言うものだから余計に羞恥心に火がついて、ついに彼の顔すら満足に見られなくなる。抗議の意味を込めてぎゅーっと無駄のない体に抱き着いてみた。一瞬戸惑ったように固くなった気がしたけど、すぐに抱きしめ返される。残念ながら私の抗議は綺麗に受け流されてしまった様だ。というか多分伝わってすらいない。




「…なんだよ、アンタがそんなんだから俺は心配になるんだよなぁ…っていうか何してても可愛いんだから少しは自分で気をつけろよ…」

「私のこと可愛いなんて言うの深司くんくらいだからね」

「気付いてないだけかもしんないじゃん」

「いやいやいや…」




真剣な表情と拗ねた口ぶりから、本気で言っているのだというのは理解出来るけども彼の言っていることを認めるわけにはいかない。最近気付いたことだが、どうも彼は自分が好意を抱いている人を過大評価するタイプらしい。例えば将来は絶対親馬鹿になる様なかんじだ。それに加えて、独占欲は強いほうだから始末に負えない。

卑屈になられてもどうしようもない状況でぼやきが始まるあたり、ある種ネガティブなのかもしれないけど、私の前でぼやく内容は愛情が滲み出ていて甘さが潜んでいて。正直な話、私だって普通の女の子だから彼氏に可愛いって言われたり心配されたりするのは悪い気はしない。ただ、それがストレートに来るから恥ずかしさは筋金入りなのだ。




「顔赤いよ」

「完全に深司くんのせいなんだけどな」

「俺、なんか言ったっけ…?」

「無自覚って怖い!」




抱き着いていた腕を解いて、彼の頬を軽ーく、うにうにと抓る。彼の腕は私の背中あたりに回されているから跳ね退けられることはなかったけど、露骨に嫌そうな表情を向けられた。

眉間に皺が寄っていて何だか面白かったからくすりと笑ったら「生意気」だの何だの言われて形勢逆転、彼の綺麗な指でむにむにと頬を触られている。余程楽しいのか表情が柔らかくて目が笑っていて、情けないことに胸が高鳴った。




「面白いな。…やっぱりすごくアンタは可愛いから、気をつけるべきだ」

「だからね、さっきも言ったけど…ああもう堂々巡りだなこの話題!」

「可愛いのは、可愛くないよりは良いと思うんだけどなぁ…普通は言われたら嬉しいんじゃないの、女子だったら。それとも俺の認識が間違ってるって言いたいわけ?」

「…いいや降参…。でも私がもし可愛いんだとしたら、それって深司くんに好かれたいからっていう理由だけなんだからね!」

「……!」




私の頬を掴んだまま無表情で固まった深司くんを不思議に思って数秒間見つめていたら、いきなりすごい力で抱き寄せられて、あっという間にすっぽりと包み込まれた。顔を肩のあたりに押さえ付けられているから彼の表情は見えない。すごく、見たい。




「深司くん?」

「………。」

「深司くーん」

「…ちょっとは黙ってられないの?」

「顔が見たいんだけど」

「本当にやめて。今は顔とか見せられない。多分俺、酷い顔してるから」




照れてるんだ、と容易にわかる位に切羽詰まった声。あちらからも顔は見えないことを知っているから遠慮せず笑ってやった。そうしたらぐん、と体を離されて向き合う体制になる。少しだけ頬に赤みがさしているけれど表情は至って真剣で、吸い込まれそうになる。そのまま顔が近付いてきた。




「キス、するの…?」

「…あのさ、普通聞かないだろ、この状況で」

「…う、ごめん。…でも、ちゃんと目、瞑ってほしいなーって」

「わかった」




力強く頷いてくれたので私は大人しく目を閉じた。けれどいつまで経っても望んでいる柔らかい感触は落ちてこなくて、不思議に思いながらパチリと目を開けたらその瞬間に瞳を閉じた深司くんが見えて、唇が素早く奪われる。目を閉じる暇なんてなかった私が焦りながらも考えたのは、深司くんって意外と睫毛長いなぁなんていう大変暢気なことだった。




「…約束は守っただろ」

「深司くんのばーか」

「怒った顔も可愛いから全然怖くないんだよな…」





(ある恋人同士の一幕)




大好きだから、許してしまう私は甘いですか?




END


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11月3日
伊武くんHAPPY BIRTHDAY!



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