小説 | ナノ







最近よく懐いてくれている二歳年下の後輩は無邪気でものすごく可愛い。ねーちゃん!なんて言ってぎゅうぎゅう抱き着いてきた時なんてもう、本気で家に連れて帰りたくなる。こんな弟がいたら全力で可愛がるのに。

そんな彼はまさに今、私を見かけて全速力で真っ直ぐに走ってきている。うーん、身長は彼のほうが低いけど、この勢いは正直受け止められる気がしない。





「金ちゃん、ストップ!」

「えーっ、なんでなん?ワイ、ねーちゃんの事、ぎゅーってしたい!」

「ぎゅーってしても良いけど、そんなに勢いつけてきたらひっくり返って頭ぶつけちゃうでしょ?」

「あ…せやな…。ほな気ィつけるわ!…なぁ、…してもええ?」

「…ちゃんとわかってくれて嬉しいから良いよ」




超特急で走ってきた金ちゃんを制止したら、悲しそうな上目遣いが返ってきて心が抉られそうになったけど説明したらちゃんと理解してくれた。やっぱりすごく良い子だ。表情がくるくると変わっていくから見ていて飽きない。

OKサインを出したら満面の笑顔でむぎゅーっと抱き着いてきた。彼は体温が高いから、触れ合っているところがなんとなく温かくて気持ちが良い。すりすりとほお擦りをしてくる姿が可愛くて、つい頭をなでなでしたら幸せそうに目を閉じた。




「えー匂いがするわー」

「私、何もつけてないんだけどな…」

「そうなん?なんやものごっつう優しい匂いやさかい、安心するでぇ」




くんくん、むぎゅー。そんな可愛い動作を繰り返している姿はじゃれている仔犬を彷彿とさせた。どろっどろに甘やかしてあげたいけど、クラスメートである白石にあんまり甘やかさないでくれと釘を刺されている。うーん、白石は金ちゃんがテニス部で一番強いだとか、見た目で判断すると痛い目に合うだとか言っていたけれど…裏表なんてなさそうなんだよなぁ。ゴンダクレなんて呼ばれているのも知っているけど、元気が良すぎるってだけで乱暴なイメージはない。





「…誤解されやすいのかな…。」

「なんの話やー?」

「ううん、…なんでもないよ」




なんだか可哀相になって、さっきよりも強く抱きしめたら「ちょっと苦しいわぁ!」と金ちゃんが豪快に笑う。それでも離れようとはしないので、さらにぎゅむぎゅむと力を込めてみたら、じいっと彼が見つめてきた。そっか、いつも上目遣いなのは身長差のせいか。でももうあと一年もしたら背も伸びて、抜かされちゃうんだろうな。…というか私、卒業するから中々会えなくなるのかな…。うん、今のうちに堪能しておこう。




「ワイな、早ぅおっきくなって、ねーちゃんのことすっぽり包むんやで!」

「ん?おっきくってどのくらい?」

「銀とか千歳!」

「…あー…、おっきいね…。うん…」




目をキラキラさせて言う彼に、出来るだけゆっくり大きくなってねなんて言えるはずもない。金ちゃんにすっぽり包みこまれる自分を上手く想像出来なくて少しだけ笑った。その時までずーっと一緒にいることを素直に信じられるほど純粋ではないけれど、そうであれば良いのになぁと思う。可愛い可愛い、小動物みたいな男の子。





「…だってな、ねーちゃんのこと、好っきやねん。おっきい方がかっこええから好きやろ?」

「私?今の可愛い金ちゃんも好きだよ」

「絶対わかってへんわ…ワイ、ホンマにねーちゃんのこと好きなんや…」

「ふふっ、私も好きだってば」




むう、という顔。完全に拗ねている表情も可愛い。でも私はちゃんとわかってるから大丈夫だ、彼が私のことを好きだと言うのは例えばタコ焼きだとかを好きだというのと同じ。きっとまだ、恋なんてわかっていないのだ。




「…ちょっとかがんで、目ェ瞑ってや!」

「え?どうしたの」

「ええからええから!」




何をしたいのかわからなかったけど、勢いに押されてとりあえず言われた通りにする。そうしたら、視界が完全に暗くなった数秒後にふに、と唇に柔らかい何かが押し当てられた。え、何今の。びっくりして目を開くと、してやったり顔の金ちゃんがいた。こんな表情は初めて見る。こんな、男の人みたいな、かっこいい笑顔。




「…奪ってもうたわ!」

「え、あ…?」

「白石が言うとったで!こうしたらねーちゃんはワイのモンになんねやろ?めっちゃでかくなってかっこよくなったるさかい、予約っちゅーことでよろしゅう!」




おかしいな、金ちゃんが相手なのにドキドキが止まらない。いつもはずっと見ていたい笑顔が、今は直視できない。とりあえず白石は後で殴るとしても、発言は的を射ていたらしい。見た目で判断すると痛い目に合う、全くその通りだ。

ほんの一瞬前まで弟みたいだとか子供だとか小動物だとか思っていたくせに、今はそのことが信じられないくらいに胸が苦しい。息が詰まりそうなほどに鼓動が速くなっている。そんな私を見て「真っ赤で可愛ええで!」なんて言ってまた笑う目の前の彼は、もはや私にとって「可愛い後輩」という名目で片付けられる存在ではなくなっていた。





(実は立派な狼さん)




こんなに一瞬で、こんなに簡単に、私は恋に落ちてしまった様です。


END



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