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ぎゃいぎゃいと喧騒が響くコロシアムで、俺は酒を片手に、ただ一人を見つめていた。今話題の大型新人、人喰いのバルトロメオ。とまあ、そんな風によそよそしく解説してみたものの、バルトロメオは俺の幼馴染みであり、今は所属している海賊団の船長でもある。

ああ、それにしても今日もすごい嫌われようだ。あいつの中身を何も知らない奴らからすると、頭のイカれた残虐な殺人鬼ってかんじなのだろうか。正直失笑である。あいつ、だいたい麦わらのルフィの話しかしねえ。行動原理は麦わらへの憧れに基づいている。だが、おれはそんな彼だから傍にいたいと思ったわけであるし、そうやって好きなものに真っ直ぐなバルトロメオを守るためなら命くらいなら賭けてやっても良いと思っている。まあ、実際のところは守られることが多いという駄目っぷりなのだが、あいつは能力も強いし心も強い。そうなるのも仕方ないだろう。


さて、その当人は罵声とブーイングの中で鼻をほじりながら高らかに笑っている。あいつの強さはよく知っているから、ある意味安心はしている。どうせ勝つだろう。おれがここまで信じて人生を預けてきた男だ、これからも、そうしていくに足る男だ。勝ってもらわないわけにはいかない。




「なあ兄ちゃん、あんたは誰を応援してるんだ?」




俺がバルトロメオに無言で視線をおくる喧騒の中、声をかけてきたのは隣に立っていた気の良さそうな男だった。誰もが声を張り上げる場所で、静かに見守っているのが珍しかったのかもしれない。正直に言えば驚かれるかな、と思ったけれど別にどうでもいいかと思い直して口を開く。




「おれですか?……おれは、」




バルトロメオです。

そう続く筈だった俺の言葉は、唐突に鳴り響いた悲鳴のような歓声に掻き消された。その勢いにおされて視線をフィールドへと移す。ああ、どうやらもうそろそろ決着がつく局面らしい。バルトロメオに向けられた怒声とも罵声ともつかない汚い言葉を聞いて世の中のギャップってすげえなあとひしひしと感じながら、俺は今日はじめて腹の底から声を出す。




「 、 」





この耳をつんざくような喧騒の中だ。届く筈がない叫びだと、そう思っていたのに。バルトロメオが真っ直ぐにこちらを見ながら何やら文句を言っていることから察するに、俺の声はバルトロメオにしっかり届いたらしい。

ああ、とても愉快だ。込み上げてくる感情の名前なんてわからないまま、持っていた酒を煽る。世界中に伝えたいような、このまま誰にも教えたくないような、そんな妙な気分と浮遊感に身を任せた。だってそうだろう、世の中では消えてほしい海賊No.1だとか言われてるあのバルトロメオが、コロシアムの観客ほぼ全員に嫌われて罵声とブーイングまみれの中、それこそ喜びだとでも言うように平然と笑ってる男が。




「……頑張れって言葉が恥ずかしいとか、一体どこの思春期のお嬢ちゃんだよ…」




自分でも気持ち悪いくらい優しい声に乗せられた小さな呟きは、誰の耳にも届くことはなく、先程の俺の言葉のせいで若干顔が赤く染まっているバルトロメオへの罵声にまみれた喧騒の中に飲み込まれて溶けていったのだった。

これが終わったら、俺だけは彼に拍手喝采を贈ってやろうと思う。どんな反応をするか楽しみだ。


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しょことの企画でこちらの文章をリメイクさせて頂きました




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