小説 | ナノ





ある日、弱っているところを発見して拾ったジュペッタは図鑑によればぬいぐるみだった自分を捨てたトレーナーを探してさまよっているポケモン、らしい。らしいというのは私がポケモンの言葉を理解できるわけではないからである。あんなに弱っていたというのにあっさりと元気になったジュペッタは、何故かとても私になついてそのまま手持ちに入り、今では相棒と言っても差し支えない仲になった。今日も私の足元にすりよって幸せそうにしている。



「ねえジュペッタ、お前も自分を捨てた子供とやらを探してるの?」

「ジュッ?」

「うーん……図鑑が間違ってるのかなあ……」




なんのことだかわからないといったような首を傾げたジュペッタの頭を軽く一撫でする。自分を捨てた子供を探すことがアイデンティティというか、存在のルーツであるかのように記載された図鑑に疑問を思いつつも、本人が幸せそうなら良いかという結論に至った。だいたいにして、ゴーストタイプの図鑑説明は無駄に怖いものが多いというのは有名な話だ。それが事実なのかはともかくとして、ジュペッタに出会うまで私が手持ちにゴーストタイプを入れなかったのはそれが少し怖かったからである。いざ触れ合ってみるとこんなに可愛いというのに、偏見はいけない。




「よーしよーし」

「ジュペジュペ〜」

「私にもお前の言葉がわかればいいんだけどねえ…」




甘えっ子なジュペッタが両手を広げてきたので、足元から柔らかい体を抱き上げてむぎゅっと頬を寄せた。その感触に何か覚えがあるような気もしたけれど、遥か昔に置いてきてしまったようで思い出せない。ある種の懐かしさのようなそれを抱えながらも、ご機嫌そうに頬擦りしてくるジュペッタの頭を優しく撫でることにした。


****



「でも、図鑑のジュペッタは自分を捨てた子供を探してどうするんだろうね、文脈的にこう…呪ったりするのかな」



自分で言ったくせに背筋が寒くなったのか、身震いをした主のことをジュペッタはじっと見つめた。そんなことをするものか、と言いたかったけれど、自分の言葉は主には通じない。

目を閉じて、思い出すのは自分がまだポケモンではなく、少女に可愛がられるぬいぐるみであった頃の記憶である。溢れるくらいの愛を受け止めながら、ぼろぼろになるまでその少女の成長をただ、見ていた。やがて役目を終えて捨てられてしまった時は悲しくて切なかったけれど、恨みなどはなく少し誇らしくすらあったはずだ。燃やされて煙になりながら、今度はあの少女をただ見ているだけではなく、隣を歩けるような存在になることを願った。そうして、その願いは叶えられたらしい。



「ジュ〜」

「なぁに、くすぐったいよ」




今度は、自分で思うように動かせる体がある。言葉こそ通じないものの、意思を伝える術がある。今のこの姿なら、きっと少女のことを守ることだってできるはずだ。それら全てはただのぬいぐるみには出来ない芸当である。少女がぬいぐるみだった頃の自分を忘れてしまっていようと構わない、だって幼い頃のおもちゃなんてみんなそんなものなのだ。



「ジュペ〜」



今度は忘れないでね、と言ってはみたものの、通じるわけなどない。それでもジュペッタにとっては、探し続けた存在が傍らにある今がただひたすらに尊く、幸せな時間だった。







×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -