小説 | ナノ






生徒会役員の仕事は、立派な肩書きのわりには少ない。大部分の仕事は会長である、ついでに隣のクラスである手塚くんがテキパキと終わらせてしまうからだ。怠けることが苦手だという噂を聞いて、成程と頷いてしまうくらいに彼は真面目だ。

一方私はと言えば、生徒会に入った理由は相応の評価が貰えると知ったからというくらいには打算的であることを自覚している。何事も人並み以上にはこなすことが出来るし上手く手を抜く術も知っている。大概の場面は笑顔で切り抜けてきた、そんな女。まるで彼とは正反対。けれど私は彼のことが嫌いではない、むしろ好いている。自分にないものを持つ存在は多くの場合、とても魅力的だ。




「会長、お疲れ様」

「ああ、お疲れ」

「あ、仕事終わったばかりで悪いんだけど…この書類に目を通しといて」




書類の束を手渡しすると、彼はそれをパラパラとめくり中を確認した。男の子のわりには細くて綺麗な指。だけど私の手より遥かに大きい。ああ、そういえば彼はテニス部の部長もやってた様な気がする。会長と部長、そんな面倒臭い…否、重要な仕事達をこなす彼は押し潰されたりしないのだろうか。この真面目さだと、私のように上手く手を抜く立ち回りも出来なさそうだが。





「ねえ、無理だけはしちゃだめだよ」

「…俺はそんなに疲れた顔をしているのか?」

「うーん、なんとなく。会長って責任感強そうだし、全体のために自分を犠牲にしちゃう気がするんだよね。頑張るのは良いことだけど、適度に手を抜かないと取り返し、つかなくなるよ?」

「……そうか。」

「会長がいてこその、私たちなんだから。そこんとこしっかり考えてね」




にこ、と笑いかけると、心配していることが上手く伝わった様で眼鏡の奥の切れ長の目が少し笑ったような気がした。彼が頑張っていることなんて、多分皆が知っている。生徒会のメンバーだって、彼のクラスメートだって、テニス部の人達だって、きっと。

期待を背負っていることは誇りには繋がるが、逆に負担にだってなりえるのだ。どうせ彼はその負担を意地でも一人で抱え込もうとするのだろうけれど、深呼吸をして周りをもう一度よく見てほしい。私をはじめ、声を待っている人間が沢山いる。彼の人間性に惹かれて止まないから、きっと戸惑いもせずに手を差し出すだろう。




「…お前は冷静だな」

「世間の荒波に飲まれてここまで生きてきたから仕方ないよ。あ、そうだ、怠けるのが苦手って本当?」

「ああ、そうだ。…どうにも苦手で」

「じゃあ、良かったら私が一緒に怠けるよ?たまには意味のない会話をしながらゆっくりする時間だって必要だと思う…し…?」




しまった、と気付いた時にはもう遅かった。これではまるでデートの誘いではないか。自覚した途端に何かフォローをしなければ、とぐるぐる働き出す思考。だがしかし纏まらない。ちらりと彼の様子を窺うと、何やら考えているようだった。傷つけない断り方とかだろうか?




「…どうにも忙しい毎日だが、…予定が空いたら、付き合ってもらっても良いか?」

「え…、…うん、もちろん…!」

「すまないな、有り難う。…たまには、ゆっくりするのも悪くはない。だが、お前…なにか夢中になっていることはないのか?」

「えっと、ね…」




夢中になっていること。私はどうにも頑張るという行為が苦手らしく、全てをなんとなくでこなしてきた。真っ直ぐすぎる瞳に向かって言えることなど思いつかない。だって、最後に一生懸命になったのがどんな時だったかすら思い出せない始末だ。何でも抜け目はなく仕上げ、結果を残し、調度良い綻びを見つけては楽な方へ流れて。冷静さだけは見失わないように今日までやってきた。我を忘れてなにかに入れ込んだことなんて、ない。




「…そうだな、今探してる途中…かな」

「そうか、それも良いだろう」

「でも、何となく…見つかりそうな予感はしてる」




それも、ごくごく目の前に。流石にそれは伝えられなかったけれど彼はどことなく表情を柔らかくした気がした。夢中になれるだろう。彼の所作ひとつひとつに心臓が高鳴る今の私なら、きっと。そういえばこれが私の初恋かもしれないなぁなんて、心の隅でちらりと考えてから目の前の彼に意識を戻した。






(カモミールの恋模様)





明日はもっと近付けると良い。硬い表情な奥にあるもの全部を、見てみたいから。





END



企画「逆に。」様へ提出


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手塚の好み
→何事も一生懸命する子(おっちょこちょいでも良い)
→逆に
→手を抜く術を知っている抜け目のない子
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カモミールの花言葉
┗逆境で生まれる力



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