小説 | ナノ







「パウリー、責任取ってくれるんだよな?俺さ、はじめてだったんだ」



はい嘘。まるごと嘘だ。パウリーは俺に対して責任を取らなきゃいけないことなんてひとつもしていないし、そもそも俺ははじめてでもなんでもない。だけど、俺の発した言葉はパウリーにとって致命傷ほどの大打撃だったようで、見たこともないような青ざめた表情をしている。やべえ、笑いそう。

自分の気持ちに気付いたのは随分前だった。男同士だけど、それでもパウリーのことが好きになってしまったのだ。一度そう思ってしまえばもう駄目で、ふとした瞬間の笑顔だとか、葉巻の匂いだとか、そんなもので興奮してしまえるようになった。それでもそんな様子をパウリーには決して見せないようにして良い友人関係を築いてきたわけだが、そんな中で俺が強く抱いたのは「こいつ少しちょろすぎねぇか」という、何とも言い難い感想。それは少しずつ確信に変わる。色事に疎いこいつは、多分少し揺さぶりをかけただけでいとも容易く落ちてしまうだろう。それならば、他の奴に奪われてしまう前に、俺が落として手に入れてしまおうと思った。

策を熟考してもう随分と経った今日、やっと実践することが出来たのだ。とても二人じゃ飲みきらない量の酒を持ち込んでパウリーの部屋で二人きりの酒盛を楽しんで。そうしてパウリーが潰れて泥のように寝てしまったのを確認してから服を脱がせてベッドに寝かせて、ついでに俺も全裸になって同じベッドに潜り込んだ。まあそれだけだったら単に酔い潰れただけだとしかとれないだろうから、そこで先程の冒頭の台詞だ。本当は俺が女だったら良かったんだろうけど、性別はどうにも出来ない。




「お、おれ、何かしたのか」

「言わせるつもりか…?良いぜ言ってやるよ、酔った勢いでお前は俺のことを押し倒して服を脱がせて、はては最後まで」

「うわああああ!やっぱり言わなくて良い!やめろ!」





頭を抱えだしたパウリーに、そりゃそうだよなぁ、と他人事のように思う。パウリーの性的思考は多分呆れるくらいにノーマルだろうし、自分が男に手を出したなんて言われて信じられるわけがない。それでも今まで俺はパウリーに対して誠実であったし嘘なんてついたことがなかったからおそらくものすごく揺らいでいることだろう。時間をかけて積み重ねた信用は強い。




「…パウリー」

「……おう」

「さっきは責任取ってくれなんて言ったけどさ、そんなことは別に良いんだ。だって、お前だからな。…俺は、嫌じゃなかったよ。ただ、男としての矜持は粉々だ」

「わ、悪ィ……」

「うん、だからさ、これでイーブンにしよう」




言うが早いか、俺はパウリーのことを先程まで二人で寝ていたベッドに押し倒す。言うまでもなくパウリーの方が俺より何倍も強いからその気になればはね除けることくらいわけもないんだろうが、先程の言葉を聞いていてそう出来るほど義理がないやつではない。そんな俺の目論見通り、パウリーはただ言葉を無くして不安げに俺を見つめていた。いつもは明るく笑っている顔が今はこんなに情けなくて、それを俺だけに晒しているのかと思うとたまらなく興奮する。だけど今日の目標はあくまでもパウリーに俺のことをそういう風に意識してもらうことであって、乱暴するのは本意ではない。それでも好きな奴の顔がこんなに至近距離にあって何もせずにいられるほど人間が出来ちゃいなかった。少しだけ、ほんの少しだけなら。




「…俺は、お前のことが好きだよ」




間抜けに半開きになっている唇に自分のそれを一瞬だけ重ねて、その唇を耳に寄せてそう囁いてやればパウリーの顔が真っ赤に染まっていく。いや、顔だけではなく全身が色付いていた。人間ってここまで感情に振り回されることが出来るんだなと、どこか感心しながらパウリーの上からどいてやればでかい図体がふるふると震え出す。怒ったのか?と表情を窺ってみたがどうやら違うようだ。

上気した頬に、涙の膜が張られた瞳に、浅く繰り返される呼吸。俺を映す目の奥には、燻る感情がめらめらと燃えているようだった。そして、それには見覚えがある。俺がパウリーに焦がれる時の感情にそっくりだ。




「責任、取る」

「ん?良いのか?」




意地悪く聞いてやると、居心地が悪かったのかそこら辺に散らばっていた自分の服を握りしめて、良いって言ってんだろうが!と怒鳴られた。その顔で言ったって全く迫力がない。ひたすらに可愛かったから思わず頬が緩むと同時にめちゃくちゃ心配になった。思った以上にちょろい。こいつよく今まで誰にも襲われずに生きてこれたな。まあ、言質は取ったからいずれ俺が襲うけど。




「だってお前、酒の勢いでもねぇのに、き、き、キスなんてするから」

「ん?ダメだったか。傷付いた俺の心をこれで許してやろうとしたんたがな」

「ダメじゃねぇ、けど、そんなことされて、好きとか言われたら…っ、くそ……」

「責任取ってくれるんだろ?よろしくな、恋人さん」




その言葉に、パウリーが小さく頷いたのは見間違いなんかじゃなく、確固たる事実だ。ロマンチックの欠片も無いのを一番わかっているのは多分俺だろうからそこには突っ込まないでほしい。かくして、ここまで上手くいって良いのかと思うくらいに策は成功して、俺は今まで狂おしい程に焦がれてきたパウリーの恋人の座を見事に手に入れることになった。

ちょろすぎる恋人を心配した俺が自分でも引くほどに過保護にならざるを得なくて、どちらが振り回されているのかわからないという幸せすぎる悩みを抱えることになるのは、もう少し先の話。



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