小説 | ナノ




本当はずっと見ていた。クールな振りして意外とお茶目な一面があること、誰に成り済ましていたって彼は彼のままで確固たる存在感は、揺らがない。そんな所が好きで好きでたまらなかった。だけど。




「まさはるくんまさはるくん!宇宙人と交信する方法おしえて!」

「…なんで俺に聞くんじゃ?全く…そんなもん知らんぜよ」

「ええっ?」

「ほら、ちゃんと前見んしゃい、転ぶナリ」




廊下で擦れ違った、仁王くんと女の子。これまで何度か見かけたり噂で流れていたりで、あの二人が最近一緒にいることは知っている。何よりあの女の子のことを見つめる仁王くんの目がとっても優しくて、私があんな目で見てもらえる日は永遠に来ないのだろうなぁと思うと胸の奥に何かがつっかえて呼吸が上手く出来なくなるような心地がした。




(私じゃ、だめなんだ)




仁王くんに片思いしてきた今までを思い出す。好みのタイプが「駆け引き上手な人」って聞いたから無理矢理そうなろうと努力もした。メイクもヘアスタイルも一生懸命勉強して、みんなから褒めてもらえるようになった。でも本当は、そんな努力の全部はただ、彼だけに褒めて欲しくて。少しでも視界に入りたかった故のことだった。

でも、素直に負けたと思えるのもまた事実。あの子は、仁王くんの隣にいても存在感が消えることはない。それどころかたまに仁王くんの方が霞んで見える。偽物を追いかけた私とは全然違って、何にも惑わされない強烈な個性。浮かべている笑顔は屈託なくて、損得で動くような子ではないことがすぐにわかる。



あの子の場所が私のものだったら良いのになんて思いながらも心のどこかがもう答えを導き出している。あの場所に私がいたとしても、仁王くんはあんなに柔らかく笑いかけてはくれないだろう。笑顔が溢れている二人の距離感はとても自然で、私の入り込む余地などどこにもない。




「はぁ……。」




深い溜息と共に、このもやもやとしたやりきれない気持ちも抜けていけば良いのにそうはいかないようだ。悲しい、憎い、悔しい。悪い心がぐるぐると疼き出す。だけどそんなことを思う自分がたまらなく嫌い。好きな人の幸せを素直に喜べないなんて嫌な性格にも程がある。どうすればいいかなんてもう、反吐が出てしまいそうな位に簡単で。でもそう出来ないのは片思いしていた長い時間がどうしようもなく幸せだったからなのだと思う。



そう、毎日楽しかった。仁王くんのことを考えながら登校して、挨拶を交わすたびに浮かれていた日々が思い出の中でキラキラと輝く。あと少しだけ私に勇気があったのなら、もっと近付けていたのだろうか?今となってはもうわからない。ただ一つ、そんなことを考えてもどうしようもないという事実だけが心臓にずくりと突き刺さった。この痛みは当分消えないのだろう。




(今まで、ありがとう)




心の中で小さく呟いてみる。今はまだ、全部の気持ちでそう告げることは出来ないけれど。それでもこの恋は終わらせなければいけない。大丈夫、片思いは所詮片思いだ。二人で共有した思い出なんてどこにもないんだから、一人で全てを終わらせられる。それが良い、正確だ。


だけど最後の悪あがきで、私が彼を好きだったことをどのような形でも良いから残しておきたくなった。伝えたい、でも知らなくても構わない。求めているのは多分、恋の終わりを明確に示す自己満足。




スクールバッグの中からノートを取り出して、1番最後のページをびりびりと破く。そのページの青い線なんか気にもせずに、ペンを取り出して一文字ずつ心をこめて大きく、ゆっくりと書き連ねる。たった四文字、だけどそこに、彼への全ての感情を閉じ込めて置いていく。大好きもありがとうも、全部をその中に込めて。明日からはもう、彼を探さなくても強く生きていけるように。



乱雑に四つに折り畳んだそれを、彼の靴箱へ。彼にとってラブレターなんて多分日常茶飯事で、現にもう先客が何通か靴箱に忍んでいた。もし沢山ある中の一つとして、見られずに捨てられてしまうのだとしても一向に構わない。元から名前なんて書いていない。ああ、最後まで勇気が足りないだなんて、ね。





(さよならだけのラブレター)




さよなら、こんな私だけど、本当に恋をしていました。(いつか笑っておめでとうを言えるように、今は涙を拭って駆け出そう)




END


しょこ様宅の、仁王シリーズの番外編として執筆させていただきました。



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -