小説 | ナノ







誰にも言ったことはなかったけど、覚えている限りの小さな頃から所謂霊感というものは強い方だった。自分でも可愛げのない、落ち着いた子供だったように思う。子供が目に見えないものを信じろと言った所で大人たちは到底信じないことも、幽霊なんてものに関わったら良い目に合わないことも子供ながらになんとなくわかっていた。



だけど、「彼女」は何やらそういう類のものとは違った。俺が感じる限り幽霊という存在は強い後悔の念の固まりで、その目は復讐したくてギラギラとしているか投げやりに虚ろかのどちらかのタイプしかいない。


けれどあの日、最初に俺が真田と彼女を一緒に見かけた時に俺の視界に入ってきたのは幸せそうに穏やかに微笑み合う姿。一瞬戸惑ったけれど、油断させておいて真田を連れて行く気なのかもしれないと考え直して警告をした。




次の日、彼女が一人で彷徨っていたから捕まえて。初めて間近で、彼女の瞳を見ながら会話をする時間を得た俺はまたもや頭を殴られたような衝撃を受けることになる。彼女の目は、俺に怯えながらも屈することはしない強さの芯が見え隠れしていた。

真田のことをひたすら真っ直ぐに思っている真剣さが伝わってくるような、そんな様子。まさかこの俺がほだされるなんて、やっぱり少し甘い。彼女の気配が消えつつあることはすぐに察知出来たからついでに助言しておいた。脳裏に焼き付いて離れないのは、幸せそうな二人の姿。他人の幸せを心から祈ったのなんて久しぶりかもしれない。だから体も貸した。つくづく面倒臭い役回りだなぁなんて本心では苦笑しながら。





ああそれと、実は。



本人達には一切言わなかったけれど、一度消えてもなんとなくまた、二人の縁は繋がる運命なのではないかとこっそり思っていた。その位、二人の間には切っても切れないような強い絆を感じたから、それだけの理由なのだけど。



それなのに追い詰めるようなことばかり言ったのは、ちょっとの悪戯心からだ。この俺に、羨ましいだなんていう感情を抱かせたんだからこの位の仕打ちなら許されるかなぁなんて思っている。





だから俺は、少し髪が長くなって、顔が大人びた生身の彼女が俺に向かって綺麗にお辞儀している様子を見ていても実はそこまで驚いてはいないのだ。落ち着く所に落ち着いた、それだけの話だと思えるくらいに冷静に彼女と真田の話に耳を傾けることが出来ている。駆け抜ける風も、青い空も何もかもが用意されていたように美しいこんな日をわざわざ選んでくることないのに。





「…意識だけがタイムスリップ、ね…。俺、初めてだよそんな経験した人間と会ったの」

「私だって会ったことありませんよ」

「幸村、突っ込み所はそこで合っておるのか?」

「弦一郎くん、幸村くんは恩人なんだからそんな言い方しちゃだめ!」





奇跡を目の当たりにしたはずの俺はあくまでも冷静に事態を把握しようとする。どうやら、彼女に感じていた違和感の正体はなんてことはなく、「彼女が普通の幽霊とは一線を引いた存在だったから」らしい。さて、彼女の話を信じる人間はどのくらいいるのだろう。そんなくだらないことを考えている俺の視線の先では何やら楽しそうに真田と彼女が会話をしていた。彼女の髪が、風に揺れて柔らかな香りが漂ってくる。




「良かったね真田、可愛い彼女が出来て」

「ぬうっ…?い、いや、俺達は付き合ってなど…」

「そうですよ幸村さん、そんな…」

「なんだ、まだ付き合ってないの?真田、覚悟を決めない男ってどうかと思うな」




互いに頬どころか顔中を赤く染めながら、俯く。誰が見たって完全に両思いってやつだ。どれだけ初なんだよ、そうかそうかこれが青春ってやつ?それなら俺の目の届かない場所でやろうか。関係ないはずのこっちがむず痒い、じれったい。まあ、彼女と真田らしいって言ったらそれまでなんだけど。プレッシャーを含むような言葉を真田に打ち込んだから、遅かれ早かれ行動に移すだろうし。真田はそういう男だ。




「そ、それより!幸村さん、本当にありがとうございました…!」

「うむ。俺からも礼を言わせてもらう。世話になった。」

「……いいんだよ」





役に立てたなら、素直に嬉しいと感じる。俺らしくなんてないのかもしれないけど、心から祝福させてもらうことにしよう。







(快晴日/それは、青すぎる空の下)


向けられた二人分の笑顔が、小さく俺の心地よさを撫でた。




END



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