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※能力者ヒロイン

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「おれの後ろさ隠れるだ!」

「了解!」




バーリアッ!と、高らかに叫ぶのは私のボスであるバルトロメオ。バリバリの実のバリア人間である彼の後ろは基本的に安全なので、ここが私の定位置になりつつある。何より、そうするとボスが安心するような顔を浮かべるから。幼い頃に悪魔の実を食べてからというもの迫害を受け続けた私を救ってくれた大好きな人がそれでいいならなんだっていいのだ。好きなことを好きなようにやればいい。私はその後ろをついていく。

さて、そんなことをぐたぐたと考えている間に戦闘は終わったようだ。ボスが悪人面な上、人を喰ったようなどうしようもない振舞いばかりするから絡まれるのは日常茶飯事と化している。今日も島に上陸した途端に絡まれたからいい加減にしてほしい。私個人としては穏やかに上陸してまったり過ごしてゆるやかに出港したいのだけど、それが叶ったことなどないのだ。そんな言動をしていてもなんとかなるくらいにはボスは強いからあまり気にしてはいないけれど。





「ヘーッハハハ!てめェら全員地獄へ堕ちろォ!」

「はいはい決め台詞もそこそこに、とりあえず今日泊まるとこ探さないとね…でもまたいきなり暴れちゃったから怖がられてしまいそう」

「…んだべな、すまねェ」

「んー、別に。どうせ私たち海賊だし。仕方ないことよね。あ、あと今日も守ってくれてありがとうボス。大好きよ。」




さらりとお礼を言えば、周りの仲間達がヒューヒューと囃し立てる。何よ、貴方達だってボスのことが大好きな癖に大袈裟ね。幾度も繰り返されているいつもの会話なのにいちいち少し照れて周りに悪態をつくボスが可愛いし面白いからご丁寧にみんな毎度毎度同じことを繰り返すんだろうけど。いちいち相手にしていられるはずもなく周りを見渡す。全ては今夜の安眠のため。宿を探さねば。とは言ってもこの人数だし中身は血気盛んなゴロツキ共だし(みんな大好きだけど)このままゾロゾロと歩いていても埒が明かない。そこかしこで喧嘩が始まるのは酷く面倒だ。と、なれば話は早い。比較的外見も中身も穏やかである奴等を適当に見繕って少人数で探そう。私を入れて三人でいい。

提案はあっさり飲まれて、その他のみんなは一足先に酒場へ雪崩れ込んだようだ。さて、宿屋。

こっちかな、と歩いていくと曲がり角で屈強な男達に腕を捕まれた。ああなんだまたこのパターンか、毎度毎度嫌になる。視線を移すと連れてきた仲間達も同じように捕まっていた。どうせ見掛けが弱々しいからと襲い掛かってきたのだろう。もしかしたらさっきの奴等の仲間かもしれないけど、正直どうでもいい。知ろうなんて思わない。女だからとなめてかかって来られちゃ困るのだ。私がか弱いだけの女ならここでこうしてはいない。野太い声が耳元で響く。嫌だなやめてよ、鼓膜が破れたらどう責任取ってくれるつもりなんだ。




「覚悟しろ、女ァ!」

「…うるさい」

「あん?貴様今の状況が……」




言い終わる前に静かになる。その男だけではない、私の周りの全てが無音になった。ああ、また加減がきかなかった。倒れた仲間達には申し訳ない気持ちでいっぱいだけど、こうしないと命まで取られていたかもしれないから許してほしい。そう、私はクラクラの実を食べた悪魔の実の能力者。自分を中心にして、周りにいる人間の脳を揺らすことができる。目眩、頭痛。揺らす程度によってはただでは済まなくなるという素敵な能力。揺らす相手を選べず、周りをことごとく巻き込んでしまうのが唯一の欠点だ。





「貴方達全員…クラクラさせちゃう」

「なんだべそれ」

「ボス!…ボスに倣って決め台詞のひとつでも決めておこうかと思ったの。それよりみんなを運ぶの手伝ってくれる?すぐ目が覚めるとは思うんだけどね」




巻き込み型の能力はこれだからいけない。仲間に甘いボスは嫌な顔ひとつせず両肩に気を失っている大の男を抱え込んだ。足を引きずってしまっているけどこの際気にしてられない。とりあえず気絶している仲間を先程の酒場にでも放り込んでおけばあとは誰かが何とかするだろう。そしてどうせボスのことだから、私と一緒に宿屋を探してくれるに違いない。だってボスは弱くはない私を、わざわざ守ると宣言してくれた人なのだ。




「間に合わなくて悪かったな、怖ェ思いさせちまった」

「ふふ、怖くなんてなかったわ」

「ンだべか。でもお前ェはおれが守ってやるからな」

「うん、ありがとう」

「惚れた女一人守れねェようじゃ男が廃るべ?」




そんなことないわよ、と返事をしながらも心は浮わついている。ねえボス、こんな私のことをこんな風に守ろうとしてくれるのが本当に嬉しい。ずっと一人で生きてきたから我が身は自分で守るしかなかった。そんな私がこんな風に大切にされる日が来るだなんて、あの頃は考えもしなかったのだ。だから私はその背を信じてついていく。絶対防御の盾に守られる幸せを知ってしまったから、もうここ以外の場所はいらない。




「惚れた男に守ってもらえる私はとても幸せ者ね」




ぽつりと溢した本音は、心地よい潮風にさらわれていった。






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