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※現パロ



キッドくんのこと思うとね、こう、心が締め付けられるというか。胸の奥が辛くなるの。呼吸、忘れたみたくなっちゃうの。恋なのかなって思ってみんなの話を聞いてみたけど、なんだかみんなが言ってるような楽しくてわくわくするような気持ちじゃないから、なんて名前を付けたら良いのか余計にわからなくなっちゃった。ねえ、どうしたら良いと思う?





「それをおれに聞くのかよ」

「え、だって本人に聞くのが一番早いかなって思って」

「…恋なのか?」

「さあ?どうなの?」





キッドくんは大きな溜め息をつきながら額を大きな手で押さえた。彼曰く、「お前と話してると頭が痛ェ」らしい。失礼な、ちょっとした相談を持ちかけただけだと言うのに。けど、そう言いながらも難しい顔で両腕を組んでうんうん唸るほど悩んでくれるキッドくんはとっても良い人だ。顔怖いけど。いや、顔どころじゃなくて外見全部怖いけど。真っ赤な髪と真っ赤な口紅は、たまに待ち合わせ場所で待ってる姿見て話し掛けるの躊躇しちゃうけど。でも、人は見た目じゃなくて中身だ。優しいなら良いと思う。わざわざ誤解を受けそうな格好するのもどうかと思うけどね。





「あー…試してみるか?」

「うん?」

「嫌だったら言え。すぐやめてやるから」





こくりと頷いたものの、キッドくんにされて嫌なことが思い付かなかった。いや、そりゃ暴力ふられたり悪口言われたりしたら泣くけど、私に意味もなくそんなことをする人ではないって信じてる。どうするのか、と思って見つめていたら、戸惑った様子のキッドくんが私の右手を取って、ぎゅっと握った。これは所謂握手と言うやつだ。ぎゅむぎゅむと、緩急つけて手を握られる。感触を確かめてるみたい。ちょっとくすぐったくて表情筋を緩めたら驚いたような表情が返ってくる。





「おっきい手だね」

「…お前が小さいんだ」

「そうかなー?女の子なんてみんなこんなもんじゃない?」

「ん、じゃあ次」





ぺたり、離れた手がそのまま頬に当てられた。当然のように嫌悪感なんてない。大丈夫だよ、と言いながら頬擦りするとキッドくんがトマトみたいに赤くなった。わけがわからなかったからとりあえず謝っておく。別に、って返された言葉にいつもの勢いはなかった。そのあとに何か言いたげな素振りを見せたものの、あさっての方向に視線を走らせながら言い淀む。そんな様子のキッドくんを見てたら胸の奥が切なくなった。ああ、いつものやつだ。




「…くるしい」

「あ?」

「なんだろね、ぐるぐるするの。キッドくんにもっともっと触りたいなって思うのに、なんだか切ない」

「触りてぇのか」

「うん」




勝手にして良いぞ、と両手を広げられたものだから、衝動に任せて抱きついてみる。キッドくんの背中に手を回したら、キッドくんの手もおそるおそる、ゆっくりと私の背中に回って、気が付いたらぎゅっと抱き締められていて、あったかくて幸せなのにやっぱりどこか切なかった。瞼を閉じると熱くなった耳からキッドくんの心臓の音が聞こえてくる。どくん、どくんと響くそれは、もしかしたら私以上に速いかもしれない。どうしようもない予感が胸を過る。そんなわけない、そんな都合の良い話はないって思うのに、加速させるように私を抱き締める力が強くなった。




「き、キッドくん」

「…何だよ」

「こういうの、慣れてるの?」

「そこまで慣れてねェ」

「……私、だけ?」

「あァ」





そっけなく肯定の返事を貰えたことが嬉しくてたまらなくなった。ようやくわかった、これが恋だ。切なくてむずむずする、これが好きだってことなのだろう。すとんと理解出来た後は、ひたすらに緊張してしまった。好きな人に、抱き締めてもらっている。どうしよう、わからないけど伝えなくては。協力してもらって導きだした答えを、言葉にしないと届かない。小さく息を吸って、ちょっとだけ手を緩めてもらって真っ直ぐキッドくんを見つめた数秒後。





「…すき、みたい。」

「おう」

「そして、もういっこ」

「ん」

「キッドくんとちゅーしたら、その真っ赤な口紅って私の唇についたりするの?」

「お前、何言って…」





だって、気になっちゃったんだもん。キッドくんだって嫌がらないってことは私のこと、すきだってことでしょ?いつも綺麗な女の子達に「触るな」って怒っているのに、私には許してくれるのはつまり、そういうことなんでしょ?強気に言ってみても本当はこわい。でも熱が燻っているようなキッドくんの瞳の奥を見ていると下腹のあたりに甘い衝撃がうまれる。とろんと溶けたように瞼を緩めて見せたら、元々険しいキッドくんの表情が少し切なげに歪められた。男の人の表情だ。首の後ろと頬に手が添えられて、至近距離で見つめられる。どうしよう、すっごくかっこいい。




「…いいんだな?」

「いいよ、…ファーストキス、奪って?」

「目ェ閉じてろ」




ぎゅっと瞼を閉じると、すぐに重ねられた唇はとても柔らかくて、それなのに何やらどくどくと心臓は騒がしい。ああ、恋ってこんなにも苦しいものなんだ。数秒間で離れた唇は、特別な熱を持つ。新しい発見だ、どうやら両思いになっても胸は締め付けられるし、泣きそうなくらい前後不覚に陥ってしまうものらしい。恋って厄介だ。ふわふわとのぼせ上がってしまいそうな思考が膨らんだと思ったらキッドくんがいつもより低くて切羽詰まったような声で「好きだ」なんていうから情けない笑顔が浮かんだ。

ねえ、もしかしてキッドくんも私と同じ気持ちを味わってくれているのかな。



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