小説 | ナノ






今日も疲れて帰ってきたのだろう。私の隣でぐっすりと眠る彼はただただ無防備に愛おしい寝顔を晒していた。こんな風に優しい時間がずっと続けば良いと心から祈る。規則正しい寝息をたてる彼の隣でこれ以上のない幸福感に満たされながら銀色の髪を右手でさらり、優しく掬えばそれに反応して彼は微かに身動きをして表情を強張らせはした。だが、またすぐに綺麗な顔で規則正しい呼吸を繰り返す。その度に上下する腹部やら寝息にいちいち安心感を覚えて、泣きたいくらいにこの人を愛していると心が叫ぶ。真夜中で静かな時間は、まるで世界から切り離されてしまったかのような錯覚さえ誘った。

簡単に人に心を許したりしない彼が私の隣ではこんなに無防備になってしまうことを誰も知らない。知らないからこそお互いが唯一であり、愛おしくてたまらなくなるのだ。根底にあるのが例え子供のような独占欲であろうとも構わない、外では見せない彼の弱さや脆さを包んであげられるのならばこんなに嬉しいことはないだろう。もちろん、私と彼は別の人間であるため彼の全て余すことなく知ることなど出来るはずがないけれど。だから、願わくば貴方をこの世界に留める最後のひとつは私でありますように。




「………。」




窓を見れば真っ黒だった外の風景が少しずつ少しずつ明るくなる、夜が明けていく。いつもは寝て起きたら朝だからこんな瞬間に出会うこともなくて、そんな貴重な光景がひたすらに美しいと思った。なんだか全てが尊い、輝いている。こんな気持ちになれるのは紛れもなく、彼がそばにいてくれるからだ。一人では見えない景色も、こんなに穏やかな胸も。爽やかな胸に募る、愛情。彼を好きになった私は幸運だ。一緒に歩む道がたとえ険しい道になるということを知っていてもなお、私は隣にいることを選んだ、それは誰かから見ればどうしようもなく愚かなことなのかもしれないけれど、私の中では誇ることが出来るから。今、手の平の上にある綺麗な銀髪に心惹かれた日から、これからもずっとずっと彼を愛している。




「…大好き」




起こしてしまわないように小さく小さく呟いて、頬に柔らかなキスをひとつだけ落とした。その刺激にほんの少し眉を潜めた彼はやがまた規則正しい呼吸を繰り返す。そんな当たり前の些細なことに満足をして再度隣に寝転がって、大きなからだに身を寄せて瞼を閉じた。新しい一日が始まる時間まではまだあともう少しの余裕がある。それまでは世界で一番安心できる貴方の隣でこの幸せを噛み締めるように眠るとしよう。




「おやすみなさい、愛してる。」




貴方がいる世界に生まれたこと、貴方と出会えたこと、貴方と愛し合えたこと。いくつもの偶然と奇跡が重なり、いくつもの日々を跨いで今ここに眠っている私達がいるとするのなら生んでくれた親、苦しい日の泣いた自分にだって感謝しなければならない。今なら全てを愛せそうだ。そんなことが脳裏に浮かんだ瞬間に私の意識は眠気に襲われて夢の中、深く深くに沈んでいった。




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※「銀髪祭」に載せた閉幕文章を
修正。
※お相手は「銀髪の誰かさん」でした。




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