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「あのこが欲しいの」



私の吐き出した言葉に目の前のピンクのモフモフもとい若様は、いつもの笑顔を崩さずに固まった。勘の良い人だから、その言葉の意味なんて直ぐ理解しているでしょうに。ああ、理解したからこその硬直なのかしら。「欲しいの」なんて要求を突きつけたようでいて、実の所これは宣言だ。特に反対されたからやめようだとか、そういうものではない。ただ彼女の歴代の愛した男たちはこの人のせいで全員抹殺されたらしいので、一言掛けておいたほうが良いかなって思っただけ。彼の信頼を裏切るのは私にとって得策ではないから、理解してくれたら良いのだけど。




「あ、別に私はあの子を利用してやろうだとか、そんなことは考えてないのよ?ただ可愛くて可愛くて仕方ないだけなの。…頼られたら断れないなんて、本当に可愛い…」

「…オイ、お前が頬染めてるとこなんて初めて見たぞ」

「だって本気なんですもの。それに、ちゃんと両思いよ?あんなにちょろいと思わなかったけど。ねえ若様、これまでみたいに、私のことも殺す?」





そしたらあのこは、私のために泣いてくれるのかしら。死にたいわけではないけれど、それは悪くない。ああでもその後どうせまた見ず知らずのやつに騙されて絆されるんだろう、それはちょっと許せないなそいつに取り憑いて呪い殺して差し上げたい位には気に食わない。そんな思慮もそこそこに、見上げた若様はとても複雑そうな顔を惜しげもなく浮かべていた。そりゃそうよね、あのこの事を妹みたいに大切に思っているのでしょうけど、私のことだって妹みたいに可愛がってくれているんですもの。身内にはとびきり甘い、私たちの大好きな若様。そんな表情も素敵ですよ、と思わず溢したらいつもと同じ大きな掌がわしわしと私の頭を撫でた。





「フッフッフッ…殺すわけがねェだろ」

「良かった。ねえ、良いでしょう?どこぞの馬の骨にあの子が騙されて振り回されるの、若様だって面倒に思ってるはずよ。それなら私で妥協しましょう?」

「あァ…別に止めやしねェよ」

「良かった。ああ、でも勘違いしないで若様。心はベビー5に捧げるけれど、私の命はこれまで通り若様のものよ」





至極当たり前のことを、至極当たり前に言っただけ。それなのに彼は大きな図体を震わせて笑う。要件はそれだけか、と聞かれたので一つ頷く、と同時に爆音と共に部屋の壁が見るも無惨に砕け散った。あっさり言ったけど結構な一大事よね、これ。煙の向こうにいるのは見間違えるはずもない、可愛い可愛い恋人。交際許可も貰ってもう何の障害もないというのに、その頬は涙に濡れている。その美しくも麗しく、そして艶めかしい姿に心奪われて、何だか色々とどうでもよくなった。まあ、一歩間違えたら命を落としていただろうとかそういう文句はあるけれど、間違うことなどない。これでもドンキホーテファミリーなんだもの。で、愛しの彼女はどうして怒っているのだろう。




「ドフラミンゴ!また私の愛しい人を殺す気なのね?今日という今日は絶対に許さないんだから!」

「フッフッフッ…」

「待ってベビーちゃん、若様は平和的に私たちの交際を」

「今助けるわ!」




うん、話を聞かない所も可愛いし、そうやって私のために怒っている姿も良いなあなんて思って頬を赤らめていたら、ベビーちゃんの攻撃を全て避けている若が呆れたように「てめぇらお似合いだわ」という有り難いお言葉をくれた。そのお礼ってわけじゃないけど、そろそろ争いを止めなきゃね。部屋が部屋でなくなりそうだし、ベビーちゃんが若様に勝てるわけがないんだから無駄な時間。それなら一分一秒でも長くいちゃいちゃしてたい。付き合い始めの煩悩なめんな。




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