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◆臆病で物音に敏感なライボルト♂




おれのご主人様はポケモントレーナーだ。色んなポケモンを育てて、バトルで活躍出来るようにサポートしてくれる。そのための努力で女の子にしては足の筋肉が発達してしまっているが、本人曰く「廃人ロード」という場所を何往復もするから仕方ないことなんだそうだ。

そんなご主人様とおれ、ほんの少し前はイッシュ地方で活躍してたのだけど、最近はカロス地方にいる。イッシュにいた頃はおれが動きやすい「環境」だったらしいのだけど、カロスではそうもいかないらしい。「火力インフレ」だとか、「天候パの弱体化」だとか、ご主人様は難しい顔でぶつぶつと呟いていたから多分それ。でも、まあ、それは仕方ないことだとは思うんだ。それよりも今日はカロスに来てから直面した、怖かったことを話そうと思う。


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最初にちょっと触れたように、おれはイッシュのバトルメンバーの中でも非常に選出してもらえる率が高かった。沢山勝ったし沢山負けたけど、それでもご主人様はいつだって笑顔で「お疲れさま」って言ってくれたんだ。嬉しかった。嬉しくて嬉しくて、それだけで頑張れた。カロスではメガ進化も体得して、ご主人様はとっても喜んでくれて、とっても誇らしかったんだ。だけどボックスの中の新しい友達から、怖い話を聞いてしまった。




「カロス地方はね、他の地方よりも遥かにポテンシャルの高い子が産まれやすいんだ」




そしておれは周りを見渡してぞっとする。カロス地方から新しく仲間になった奴らはみんな、ポテンシャルが高い連中ばかりだ。潜在的な力は、どれだけ頑張っても変わることがないと知っていた。ならば、おれは?自慢ではないが、今までの平均から言えばそこそこ良いポテンシャルを持っている。でも、カロスの平均を見たら劣っていることは明らかだった。むくむくと沸き上がってくるのは、感じたことのない不安。ご主人様はおれを捨てて、新しくポテンシャルの高いライボルトを迎えてしまうのかもしれない。そしたらおれは、どうすれば良いのだろう。産まれた時からずっと一緒だった、おかあさんみたいな存在。失うことなんて考えたこともなかったからわからない。ずっと一緒だと思っていたのに。




「ライボルト、大丈夫?なんか調子悪い?」





たてがみを撫でてくれるご主人様の手はいつもあたたかかったけど、その日からおれは常に恐怖心と戦っていた。このバトルに勝てないと見放されてしまうのかもしれないって毎回思って、震えながら敵と向かい合う。でもやっぱりはじめての環境で、倒されてしまうことも多かった。めざめるパワーの弱体化とか本当にやめてほしい。昔は倒せていたはずの敵にすら苦労するようになって、さらに思い込みに拍車をかける。ご主人様にいらないなんて言われたら、もうおれどうしていいかわからなくなってしまう。だから勝つしかない、おれだってまだやれるよって姿を見せるしかない。心配するようなご主人様の顔を、直視出来ない毎日が続いた。弱くなってごめんなさいって言いたかったけど、おれの言葉はご主人様には通じない。

そんな日々が少し続いた後、ご主人様は困ったように笑っておれをパルレに連れ出した。




「ねえライボルト、ちょっと聞いてくれる?」




久しぶりにご主人様とみっちり遊んで、たくさんたくさん撫でてもらって、美味しいおやつを沢山食べさせてもらった後の言葉に身構える。さよならって言われてしまうのだろうか。一気にしゅんとした様子を見て慌てたのか、撫でる手が速まった。どうせいらないって言われるなら優しくしないでほしい。もっと惨めで悲しくなるじゃないか。




「最近、上手にサポート出来なくてごめんね?でも私、もっと頑張ってみるからそんな風に落ち込まないで。これからもずっと一緒にいたいな」




どうやらご主人様は、おれが落ち込んでいる原因を勘違いしていたらしい。そうして、さも当たり前のように「ずっと一緒」と言ったのだ。それは、おれの代わりなんて考えていないという真っ直ぐな言葉。何日も気を張っていたのが馬鹿みたいだと思った。そうだ、どうして不安になったりしていたんだろう。おれのご主人様は、こういう人だ。情に厚くて、懐に入れたら最後まで可愛がってくれるような人。だからおれは、この人のために戦っていたんじゃないか。思わず揺れる尻尾。それを見たご主人様は嬉しそうに笑って、またおれを撫でてくれた。

そうやって笑ってくれるなら、もうおれに怖いものなんてない。今日も力の限り、ご主人様のために戦おう。








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