小説 | ナノ




「ねえ官兵衛さん、私、とても暇よ?」

「お前さんが暇?ンなこと小生の知ったこっちゃ……あだだ、後ろ髪引っ張んな!」




だって、つまらないんだもの。そんな風に拗ねた顔を見せてみても目の前にいる不運の塊みたいな男は何かの図面と向き合ってばかり。女っ気がない生活をしてるからって遊びに来てあげたと言うのに全く、失礼な男。そう思いながら視線をちらりと向ければ隆々とした筋肉がついた太い腕、強さの象徴みたいな骨ばったがっしりとした手。粗雑そうに見えて意外と頭が良い所も気に入っている。

回りくどいのは嫌いなのでこの際はっきりと明言しておくと、私は彼のことがどうしても好きなのであった。けれどそれに気が付いた所で、まずは彼に私のことを意識して貰わないと何も始まらない。打算的だと言われようと、拒絶されるのは怖いのだ。




「ふふっ、涙目」

「誰のせいだ誰の!」

「構ってくれない官兵衛さんのせい」

「はぁ…小生はなぁ、我慢してやってんだぞ?男と二人きりなんだから、もっと警戒したらどうだ」

「それこそ失笑ね、男としての顔なんて見せてくれない癖に」




煽るようなやり取りは、最早いつものこと。この後に頭をがりがりと掻きながらバツの悪そうな表情を向けられるのがお決まりだから今日もそうであると予想していたのだけど、今日に限っては、どうやら違ったらしい。突然動いた巨体に反応することが出来ずに時間が止まる。自分から距離を置くのが常だった癖に、輪郭がはっきりしないほどの至近距離。動きに合わせて揺れた前髪の隙間から見えた瞳が、まるで獲物を狩る瞬間の猛獣のようだと思った。跳ねた心臓は次の展開を期待して取り返しがつかない程に騒いでいる。





「男としての顔?見たいなら見せてやろうかね」

「……た、楽しみよ?」

「そうかい、その言葉は後悔することになるかもな。最も、もうやめてなんざやらんが」





耳元で囁かれる、いつもより低めの声色にぞくりと背筋が震える。強がりと不安、それから大きすぎる期待がどんどん押し寄せてきて、満たされてしまいそうだ。好きな人に「女」として扱われて劣情をちらつかされる程、単純に嬉しいこともない。身体中の火照りを何とかしてほしい、そんな願いを視線に込めれば自然と彼を見つめ返す瞳にも熱がこもる。



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