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同じクラスの三成くんと仲良しな大谷先輩のことを目で追うようになってどのくらいの時間が流れたのだろう。最初はどうやって浮いているんだろう、とか、全身に包帯って暑くないのかな、とか、そんな些細な疑問がどこかに引っ掛かったからだった気がする。だけど見ている内に、どうしようもなく惹かれてしまったのだ。しっかり話したことすら無いくせに好きだなんて自分でもおかしいとは思う。隠そう、そう決めたけれど日毎に先輩への想いが膨らんで胸が張り裂けてしまいそうなのだ。もて余す位の熱を、どこかにぶつけなければ耐えられそうもない。

だから、時代錯誤な手段を取ることにした。一文字一文字に気持ちを込めて手紙を綴ったのだ。ただ自分の気持ちを書いただけ、先輩のことを好いている女もいるのだと、知って欲しいだけ。迷いに迷って、結局シャーペンを持つ手が震えて自分の名前をしたためることは出来なかった。そうして、放課後。その手紙を入れた薄紅色の封筒を持ってオーソドックスに靴箱に向かい、そこで思い至る。先輩、靴、履いてない。

少し焦ったけれど、すぐに思考を切り替えた。簡単な話だ、靴箱に入れられないなら先輩の机に忍ばせれば良い。教室には座席表が貼ってあるはずだからそれを見れば可能だ。踵を返して階段をかけ上がる。ああ、先輩がいつも学んでいる教室に入るのは初めてだ。誰かに見られたらどうしよう、と騒ぐ心臓を押さえながら教室の扉を開け、掲示板に貼ってある紙と席を見比べて先輩の席を指で確認した。ここだ。震える指先で椅子を引いて机の中に封筒を入れようとした、その瞬間、聞き覚えのある声が背後から私に話し掛ける。





「やれ、ぬしは一体何をしておるのよ」

「……お、大谷先輩…」

「そこは、われの席だが」





何故、ここに先輩がいるのか。理解したくないあまりに背筋に冷や汗が伝うという経験を生まれて初めてした。全身がぶわっと熱くなるのに、末端だけが冷える。カタカタと、自分の意識の外側で体が震え出して、やっとのことで絞り出した声はこの上なく弱々しい。当然だろう、直接なんて間違っても言えそうになかったから此処でこうしているのだから。




「や、あの、先輩には、関係、なくて」

「ほう?…して、ぬしが後ろ手に隠したものは何だ?関係ないのならわれに見せてもよかろ?」

「だ、だめです、だめなんです…これは…」

「見せぬならば理由を言ってもらわねば、なァ?」





ふわり、手に持っていた封筒が不意に宙に舞い上がる。先輩が浮かべたのだと気付いた時にはもう遅く、探るような瞳が私を真っ直ぐに射抜いた。こんなに長い時間目を合わせたのは初めてだ。ずっとずっと、私が一方的に視線を送っていただけで、目が合えば気恥ずかしさから逸らしてしまっていたのだから。私の手から離れた手紙は、届かないような場所でふわふわと浮いている。





「…文か」

「や…返して、下さい!」

「よもや、不幸の手紙とやらか?…それほどぬしに嫌われていたとは、悲しい、カナシイ」

「そんなわけないじゃないですか!」




思わず声を荒げて否定すれば、先輩の口元が愉快そうに歪む。ああ、そうだ、先輩は多分全て気付いているのだろう。送られている熱い視線も、今私がこうしている理由も、全て。知っていて、からかっているのだろう。悔しい気もしたけれど、それでもこの状況を打破する策が見当たらない。そもそも、にやつきながらこちらの様子を観察している先輩に、勝てるわけがない。





「では何が書いてあるのだ?われには皆目見当もつかぬゆえ、ぬしの口から教えて欲しいものよ」

「……っ」

「黙っていてはなにもわからぬ」

「…ラブレター、ってやつです……」





固く結んでいた掌がじんじんと痛む。絞り出した言葉が、二人きりの教室に響いた。言った、言ってしまった。人生で初めての告白がまさかこんな形になるだなんて、予想出来たはずがない。ぎゅっと目を瞑って、先輩の言葉を待つ。心のどこかでは振られることがわかっていた、けれど、それどころか次向けられたのは私の予想の遥か斜め上を行く言葉だった。




「ヒヒッ、われはいきなり耳が遠くなった。もう一度言いやれ」

「せ、先輩!意地悪しないで下さい、絶対わかってるじゃないですか!」

「わからぬ。結局ぬしはどう思っておるのだ?」





誘われている、導かれている。そんな風に言われたら、ちゃんと気持ちを伝えるしか無くなってしまうじゃないか。心臓の音が、頭に直接響いているのか錯覚するほどに大きい。噛んでいた下唇を、綻ばせなくてはならない。私が今、言わなければならないのは、たった一言だ。少しだけ多めに息を吸って、吐き出すように、拙い言葉を紡ぎ出す。熱くて熱くてどうしようもなくて、涙の膜で全てが滲んでいく。





「わ、私、…大谷先輩のことが、好き、なんです…」

「…ヒヒヒ、…これは貰って行くぞ」

「あっ…」




ひらひらと、封筒は宙を舞って先輩の手にしっかりと捕まれた。そのまま、放心状態の私の頭を、封筒を持っていない方の手で優しく一撫でして、余裕を崩すことの無いまま教室を出て行こうとする。触れられたことの衝撃で一気に体中の力が抜けて、追いかけることすら出来なかった。





「…返事が欲しくば、次はぬしからわれに会いに来やれ」

「え…」

「では、失礼する」





(青春謳歌とラブレター)



ああ、先輩はやっぱり意地悪な人だ。そんなことを言われたら、変に期待してしまう。とりあえず今は、この熱を冷ますことを考えなければ。そうしないと、私はいつまでも帰れないのだから。




了?



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