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※現パロ

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さて、どうしたものか。


事の起こりは数十分前、彼が「眠れない」とか何とか言いながら私の部屋に乗り込んできたことである。こちらは普通に寝る準備を整えてから布団の中でだらだらと自分の時間を貪っていた所で、少しずつ瞼が重くなってきたと思った矢先いきなりの来客。しかも遠慮などなしに布団の中へと侵入してきたからもう大変である。何が大変って、私の心臓が。彼の見目はそれはもう整っていて私を魅了して止まないことをもう少し配慮してほしい。かくして私の眠気は完全に吹っ飛んでしまった。

そんなことは知らんと言わんばかりに、私の睡眠を妨害した張本人は私の体を抱きまくらの如くがっしりとガードしたままものの数分で気持ち良さそうな寝息をたてはじめた。右肩の上を滑る彼の左腕、首の下に差し込まれた彼の右腕、離すものかとでもいう様に左足の上に乗せられた彼の左足。左の耳からは絶えず呼吸がきこえ、左の肘には肺が上下するのが伝わってくる。そして私の心中は冒頭へ戻る。






「三成くーん」

「……。」





名前を呼びかけてみても、すうすうと寝息をたてるだけ。普段はあまり眠らない彼だから一応喜ばしいことではあるけれど、如何せんこれは体勢が悪すぎる。いくら彼が細いと言ってもれっきとした男性なのだ。その体重に女である私の体が耐えるはずもない。きっともうすぐ痺れる。

意を決して首をぐぎぎと動かして彼の方を向いて、そして少しだけ後悔した。いつもの鋭い射るような眼光が瞼の下に隠されて、安心しきったような寝顔はまるで子供のように柔らかだ。ああ、やられた、と思う。なるほどギャップ萌えという言葉はこういう時に使うものらしい。悔しい気もするけれどそれ以上に可愛い。





「…ん……。」

「えっ、ちょっと…」

「……。」





身じろぎをして、微かに声帯を震わせたのは私が首を動かして刺激をしたからなのかそうではないのか定かではないが、とりあえず結果から言うと事態は悪化した。先程よりも格段に強い力で引き寄せられ、体重を預けられている。可愛いからと言って全てが許されるわけではない。痛い重い、頼むからどいてくれ。

だがしかし、はた、と思い当たる。この男は確かお世辞にも寝起きが良いとは言えなかったはずだ。自分で起きてきた場合はまだ良い。機嫌が悪いには違いないが頭が上手く働かないせいで口数が少ないだけ可愛げがある。問題は何らかの事情で誰かに起こされた場合だ。一度だけそのような事態に陥った際に彼は何故か激怒し、起こした張本人である友人の家康くんの名前を絶叫しながら暴れ回るという地獄絵図を生み出した。(ただ、当の家康くんはとても爽やかな笑顔をたたえながら暢気に「三成はこうでなくてはな!」なんて言いながら三成くんの攻撃を全て回避していたのだが。)



下手に刺激して起こしたら不味い、あんなスーパー回避は私には無理だから場合によっては命に関わる。背に一筋の冷や汗が伝った。だが、私のやるべきことはただひとつ。なるべく刺激を与えず、彼が起きることなどないように配慮しながらどうにかこの体勢から脱出すること。言うのは簡単だががっしりとホールドされているここから頑張るのはマイナスからのスタートどころの話ではない。ただの無理ゲーだ。許されるなら泣きたい。





「……っ…」





唯一自由である右手で、なんとか腕を解きにかかる。けれど力を込めてもびくともしない上、不愉快そうに眉がしかめられた。起きないでくれ。知識と集中力をフル導入して動かす角度を決めて再度力を入れる。そうしたら少しだけ拘束が弱まった。今だ、今しかない!押さえ付けられていた左足を無理矢理引っ張って、彼の全身全霊のホールドから抜け出す。小さな唸り声が耳に届いて心臓が跳ねる。けれど抜け出せた、抜け出せたのだ。

えも言われぬ達成感が身の内から溢れ出す。私は頑張った、自分で自分を褒めてやりたい。大声で万歳三唱でもキメてやりたい。その時、彼の美しい右手が私の寝巻きの裾を掴んだ。





「…わたし、の、…もとから、…さる、な…」

「……!」





完全なる寝言だ。寝ている時すら私を繋ぎ止めようというのか。全く、これだから愛おしい。溢れる笑みと共にため息を一つ落として、さっきまでいた場所とは反対方向に体を横たわらせた。そうして、意外と大きなその背中に後ろからぎゅっと縋り付いてみる。そうしたら彼はまた深い呼吸を繰り返して眠りの淵へ落ちていった。低体温だと思っていたが、意外とあたたかい。そのあたたかさに、一度は去った眠気が再度到来するのを感じた。






(月下の攻防戦)



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