小説 | ナノ




移ろいゆく日々に微かな四季を楽しんで、例え存在した証さえ何も残せなくたって確かに二本足で立ち、足掻いてでも生きていく。犠牲となる全てに祈りを捧げ、感謝の意を忘れず、振り向くことはしない。それが私、だ。





(ひねもす)





タソガレドキ忍者隊。そう呼ばれる組織に私は属している。幼少の頃より母と呼べる存在はいなかった。別だそこに興味もなければ関心もない、この時代にはよくあることだ。父はこの忍者隊の古参であるが、ある忍務で体中を負傷してからは余り表立った仕事はしていななかった、しかし頭は良く回る人なので、今の組頭である雑渡さんとはよく酒を酌み交わしながら何やら小難しい話をしていたようだ。そんな父も他界してからもうすでに二年の月日が経とうとしている。



天涯孤独となった私を組頭は見捨てようとしなかった。幼い頃から世話になっていて、返しても返しきれない程の恩がある。力ではどうしたって男に敵わない女である私を生かしておいてくれている、私が心から尊敬するお方。彼は今や私の上司であり、兄であり、父である。だから、だからこそ持てる全てを利用して私なりの「強さ」を飽くことなく追い求めている。殊更「生きる」ことに執着している私が命を投げ出すとすればきっとこのお方のためなのだろう。私は殿ではなく組頭をお守りする盾となりたい。本人にそんなことを言えば「私はお前に守られる程迂闊ではないよ」だとか「殿をお守りするのが私達の仕事だ」だとかそんな言葉を返されるのは目に見えているから言わないけれど。





「組頭、どちらへ?」

「ああ、お前か。いやね、ちょっと忍術学園に遊びに行こうかと」

「またですか?」





ああ、また小頭が頭を抱えて難しい顔になるなぁ、なんて暢気に考えてみる。どうやら組頭の最近のお気に入りは「忍術学園」なる場所らしい。私は直接出向いたことはないが話には良く出てくる。尊奈門が勝負を挑みに行っては、学園の教師である「土井」に負かされて帰って来て皆にからかわれている姿を何度も見ているし、組頭だって時たまに「伊作くん」や「伏木蔵くん」の話を優しい瞳で語ってくれることもあるのだ。まあ興味がないと言えば嘘になるが、それだけだ。少しでも組頭の退屈を紛らわせ、楽しめる場所になってくれているならそれで良い。





「止めないの」

「別に。いいんじゃないですか?気をつけて行ってらっしゃいませ。あ、でも小頭に何か言われたら気付かなかった振りをします」

「お前も来る?」

「え」





心なしかいつもより二倍増でにやついている組頭が私に向かって手を伸ばす。こうなってしまえばもう結果は同じ。私まで共犯にしようだなんて組頭も中々人が悪い。そんなこと、抗えるはずがないじゃないか。どんなことがあったって私は組頭から差し出された手を払い退けることはない。多分、今までもこれからもないだろうと思う。重ねられた手に満足げな笑みを浮かべた彼は即座にその場から飛び出していく。流石組頭、速い。

だけどその後ろ、着いていけない私ではない。お望みとあらば、風と見間違おう姿を見せよう。支えていただいている命だから、終わるまではせめて、ボロボロになったとしても咲いてやる。





「昆奈門、さん」





どうせ風に消えるから、幼い頃に呼ばせていただいていた名前をぼそり、呟いてみた。顔を合わせない日はないくらい近い存在だと言うのに、不思議と懐かしい響き。組頭のことは勿論慕っているけれど、男と女の間に生まれる、所謂恋慕という感情には程遠い何かだ。正直、命じられれば夜のお相手だって断りはしないけれど、組頭には一度たりともそんな事をされたこともない。大体、恋愛感情のような、結ばれたり解けたりするような絆でもないのだ。様々な想いを越えすぎてどんな言葉でも敵わなくなってしまったかのような強い想い、ぶつけたりはしないけれど、いつだって彼のための忠義として此処にある。幼い頃からの、ひっそりとした決め事。

自分のために生きて、彼のために散ろう、と。





「呼んだ?」

「いえ」

「空耳か、歳かな」

「組頭はまだ三十六でしょう」

「まだじゃなくてもう、だよ」





優しい目元は、昔から何も変わっていない。それに何故か少しの安堵を覚えながら未だ見ぬ「忍術学園」を目指した。











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