小説 | ナノ




※ヒロインが中々最低です
※みんな病み気味

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好きの気持ちには幾つか種類があって、同じ「好き」でも性質は全く異なっていたりする。


私の右隣には三郎が、左隣には雷蔵がいて、私は二人に挟まれている。こうして三人でいる空間が心地好くて気に入っているのだけれど、少し面倒な問題がある。私を見つめる二人の瞳の奥に、時折恋慕が見えるのだ。それに気付かぬほど鈍感ではない。けれどそれを口に出来るほど考え無しでもない。

繰り返すようだけれど、私は三人でいるのが好きだ。三郎の話に雷蔵と二人で耳を傾けて笑えるこの時間が、好きだ。彼らは深い絆で繋がっているから私にその想いを伝えようとはしないだろう。さながら蜘蛛の糸に絡んだ蝶々のように、身動きがとれぬのは彼ら二人、同じ。けれど私は多分、動かぬ蜘蛛だ。二匹の蝶を捕らえて、内心でほくそ笑む、浅ましくて醜悪な蜘蛛。それを上手に覆い隠して何にも気付かぬ素振りでこの場所にいる。





「どうしたの?何か上の空じゃないか」

「え?そうかな?大丈夫だよ」

「そうか?ならいいんだが…」

「うん」





心配そうな顔で気遣ってくれるのが雷蔵で、訝しげな目で見てくるのが三郎。三郎が雷蔵の顔を借りていると言えども彼らは全く別の人間だ。だから別に、二人に同じ思いを同じだけ注いでいるわけではない、そんな失礼なことはしない。ただ余りにも性質の違う感情を抱いているものだから計りかねているのだ。





「雷蔵、そんなわかりやすく迷わないでよ。どうせあれでしょ、様子がおかしい私を今日はもう帰すべきかこのままでいるべきか」

「…参ったな、何でもお見通しか…」





ふにゃり。力無く笑う雷蔵には、包むような穏やかな愛を。ふわり、ふとした時にはぼんやりと、その美しさが消えないように硝子の棺に入れて飾っておきたいな、なんて考えてみたりする。勿論行動に移す気など毛頭ない。ああでも成程、三郎が深い信頼を置くわけだ。雷蔵の人柄の根の部分には覆し様のない優しさが見え隠れしている。きっと私の性質はどこか三郎に似ているのだろう。自分には無いものを沢山持っているから観察していたくなる。ずっと見ていたい、自分の足りない部分を彼に求めたい。欲しがる全てを与えたい。何より彼が笑えば心が緩む。





「雷蔵、別に良いんじゃないか?こいつは自分でここにいると決めたんだから私達が口を出すことではないさ」

「…私、三郎のそういう物言いは嫌いじゃない」

「相変わらず変な奴だな」





にやり、口元だけで笑う三郎には、静かに渦巻くような愛を。きっと本質的な何かが私と似ているから妙に居心地が良い。それと同時に、その全てをぐちゃぐちゃにしてやりたい。目茶苦茶に暴いて、そのすました面の皮を剥がして泣かせてしまいたい。勿論実行はしないけれど、思考なんてものは個人の自由領域だ。似ているから愛しくて、結局は交わらないと知っているから憎たらしい。だから全てを奪ってしまいたくなる。穏やかでこそないものの、この気持ちだって立派な思慕だ。彼が余裕そうな表情を崩すたび、胸がざわついて焦燥感だけが急いて動き出す。

全く形が違うからこそ、どちらもほしくなるのだ。罪深いことだと知っていても私はこのままでいたい。どうせ、一緒にいられるのも「忍術学園」という篭の中にいられる時までだ。ならばその短い間、好きに振る舞って過ごしていたいと願う。





「雷蔵、三郎、これからもずっとこんなふうに三人でいてくれる?」

「ずっとは無理だろ、違う城に就職したら離れ離れどころか最悪敵同士だ」

「じゃあ、それまでは」





雷蔵が穏やかに頷いて、三郎が「ああ」とふてぶてしく零す。もし近い将来私が彼らの敵になったとして、私が彼らを殺したら二人とも私のものになるのだろうか。歪む口角を無理矢理押さえ付けて、「なんだか寂しいね」なんて心にもない言葉を吐いた。欲しい、欲しいと日毎に呻いて強くなるこの我儘な衝動達を、さて、私はどうしようか。





「寂しい?なら、全部捨てて僕と三郎とずっと三人でいるかい?」

「誤解するなよ。逃げられないのは私も雷蔵も、そしてお前も同じだ」

「……え?」







(三人ぼっち)




あれ、可笑しいなあ。視界の端でくるくると何かが歪んで飲み込まれそうになる。何かが、決定的に間違っている気がする。花のように笑っているのが三郎で、口元だけで笑うのが雷蔵?ああ、それで、捕らえられたのは誰だっけ?





END



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