私は今人生最大ではないがピンチを迎えている。

今日はテニス部の朝練がないと聞いてじゃあ朝は遅くていいのか、と思ってたら寝坊した。
きっと幸村君がいなかったら普段もこんな感じになってる。
毎朝朝練に誘って迎えに来てくれる幸村君に感謝しなければならない。

噂の幸村君は委員会かなんかで朝の集まりがあるんだとか。
そんな幸村君から電話がかかってきたのが5分前。

"学校休むの?"
「寝坊しました」
"…馬鹿じゃないの"











学校の最寄り駅のホームに着いた。
全力疾走して間に合うかな…いや、無理だろ、という時間だ。


「あれ、先輩じゃないッスか!!おはよーございます」
「あ、赤也君」



自転車に乗る赤也君から声をかけられた。


「先輩がこの時間って珍しいッスね」
「寝坊。赤也君は大丈夫なの?」
「俺チャリなんで」
「……裏切り者ー」
「後ろ乗ります?」
「いいの?」
「もちろんッスよ」


ニカッ、と歯を見せて笑う赤也君は本当可愛い。
でも可愛いと本人に言うと可愛いと言われても嬉しくないらしいので言わない。

重たいからね、そう注意して後ろにまたがる。
赤也君の腰辺りを掴むと赤也君はペダルをこぎ、自転車は普通に乗る以上の速さで進みだした。


「ちゃんと捕まってて下さいよーっ!!」
「はーやーいー!!」


この調子じゃすぐに着いてしまうのではないか。

校門が見えてきたあたりで見える人影。
今日風紀委員の検査でもあったかな?
だとしたらやばい。
風紀委員といったらあの真田君がいるんだ。
他の人達はどうだか知らないけど、真田君が厳しいのは知ってる。
2人乗りなんて殺される。

そかし近づいていき見えてきたのはあの厳つい表情の真田君ではない。





「…幸村君?」


「…遅かったね」
「おはよーございます、幸村先輩っ」


人影の正体は噂の幸村君。
どことなく不機嫌なのは気のせいではないと思う。


「じゃあ俺チャリ止めて来ますねー。じゃあ先輩、また放課後に!!」


赤也君はそれだけ言うと私と幸村君を残して去って行った。
改めて幸村君に向き直る。


「ね、寝坊しました…」
「知ってる」
「ま、待たせてごめん…」
「うん」


1言で返されると会話が続かない。幸村君が続けたくないなら無理に会話しようとも思わないけど…


「赤也…」
「えっ」
「赤也と一緒に来たんだ」
「あ、うん」

「自転車に二人で乗って」
「え」
「赤也にしっかりと捕まって」
「え、あ…」
「それで俺が何とも思わないと思った?」
「え、あ、え…」
「……次から、部活なくて俺が委員会あっても一緒に行くよ」



一旦黙って幸村君が言った言葉は私に取ってありがたいっちゃありがたい。

「また彼女に寝坊されても困るしね」

幸村君はそう言って笑った。
 

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