今週1週間は親がいつもより帰ってくるのが遅いらしい。もしかしたら帰らない日もあるかも、と言われた。

「まぁ、なまえなら大丈夫よね」

と言うのが親の口癖だ。

飼っている犬が私が帰るまで一匹では心細いと思い、今週1週間は部活で遅くなる幸村君より早く家に帰る事にした。

理由を話すと犬好きな幸村は快く了解してくれ、本当に犬好きなんだな、と思った。


その帰りの電車。
家から最寄り駅のホームで人にぶつかった。
その拍子にカバンの中の物もぶちまけてしまった。
チャックあけてた自分を呪いたい。


「あ、すいませんっ……大丈夫ですか?」
「こちらこそすいませんっ」

ぶつかった彼女は私の家から近い高校の制服を着ていて、確か偏差値は立海と同じくらいだったと思う。

それが彼女との出会いだった。















次の日の朝、また彼女に会った。
彼女も私を覚えていたようで会釈しあう。

「その制服立海のですよね?」

彼女は私の制服を見てそう漏らした。

「そうです。立海ですよ」
「やっぱり!あたし中学校立海だったんです」
「そうなんですか!じゃあ外部受験されたんですか?」
「あ…、うん…いろいろあって…」


少し俯きながら彼女は言葉を濁す。


「…じゃあ、私高校からだから入れ違いだったんですね」


濁したってことはそれなりの事情があったんだよね。
立海にも怖い女の子いるもん。うんうん。
幸村君なら何か知ってるかもしれない。


「あの今いくつですか?」
「高2です」
「あ、一緒だ!じゃあこれから敬語なしで!私猪俣葵衣って言うの。葵衣でいいよ」
「みょうじなまえです。よろしくね」


電車がホームに入るアナウンスが入る。


「あ、メアド交換しよ!これあたしのメアド」


メアドと名前が書かれた紙を受けとって返事をする。その返事を聞いた彼女…葵衣ちゃんは歯を見せて笑った。



*


「おはよー」
「おはよう」


朝1番に会ったのは柳君だった。朝一番なのになんの乱れもない柳君は私の手に握られた紙を見て疑問を口にする。


「何だそれは?」
「メアド」
「男のメアドだったら幸村は拗ねるぞ。テニス部にだけは危害を加えないようにしてくれ」
「女の子だから大丈夫」
「ほう…」
「疑ってるな。ほら」


紙を広げて見せる。柳君だから悪用とかは…しないと思う。
しかし紙を見た柳君はすぐに目つきを変えた。


「いつ、もらったんだ?」
「え、さっき」
「どこで?」
「どこで!?…駅でぶつかったのをきっかけに少し話すようになって…だから駅で」
「どこ高の奴だった?」
「O高の子だったけど」


「…あんまり関わるんじゃない」
「え?」


それだけ言うと柳君は部室へ向かった。
関わるな、と言われてもメアド貰って送らないのは気分が悪い。しかもまたいつか会うだろう。

私のメアドだけでも送っておこうと思いメールボックスを開いた。




.
 

PLEV|NEXT
[back]



- ナノ -