その先へ | ナノ
 13

「ほんっと意味わかんない!」

「ちょっ、は!?」

「何あいつ、マジ無理!気持ち悪い!腹立つ!!」

 ガッと繰り出した足は綺麗に近くにいた男にヒットする。無様に転がる男をフードの奥から見下ろしながら視線を上げれば、明らかに困惑する複数の瞳と目が合う。

「おい黒兎、何してるんだ。」

「見て分からない!?憂さ晴らししてるの!!」

「人のチームで暴れるのはやめろ。」

「じゃあストレス発散ついでに手合わせしてよ。」

 あの後、逃げられたことにも売られた喧嘩に少しだけビビってしまったことにも腹が立って、今までは避けていたアベルに乗り込んだのだ。見覚えのある顔ばかりだったが、それでも下っ端は突然の訪問者に驚きながらも喧嘩を売ってくれたので買ってやればこの反応だ。

「…お前、優雨か?」

「はあ?黒兎さんですぅ!」

「優雨だな。話聞いてやるから暴れるな。」

 あっさりと俺を優雨だと見破ったのはもちろんアベルを仕切る碧葉だ。トップの言葉に俺を知る数人はぎょっと目を見開き俺を凝視する。

「…もう、嫌だァ。絡まれるしナイフ投げつけられるし、なんでバレるのー?」

 文句を言いながらフードを外して未だ唖然としている維月に視線を向ける。学校とは違い眼鏡のない素顔だから、同じ学校に在籍する人間が息を呑む気配がした。間違いなく理事長と関わりがあると思われるだろう。そしてそれは間違いではないから気にすることなんて何も無いのだけれど。

「ねえ維月、手合わせしてくれるよねぇ?」

「え、でも…つか、お前その怪我、何?」

「変態にナイフ投げつけられたぁ。そんなことより手合わせしてくれるよねぇ?兎さんのこと、構ってくれるでしょう?」

 二ッコリと笑いながら言ってやればあからさまに視線をさまよわせる維月は、やがて諦めたように一歩前へ踏み出した。

「番犬より強いお前に勝てる自身はねえよ?」

「仕方ないから手加減はしてあげるよー。」

 雰囲気違いすぎねぇ?なんて言葉を無視してかかってきた維月に高揚感を抱きながら俺も一歩踏み出した。





「ここまで来るといっそ爽快、というか楽しそうだな。」

「だろう?」

「それよりお前はいつ止めてくれるんだ?」

 いつの間にか楽しみ出したメンバーが次々と黒兎に襲い掛かっては返り討ちに会う様を高みの見物していた碧葉は不意に隣に来た男に話しかける。自分より少しだけ背の高い男は言うのはなんだが、かなりイケメンだ。同じ血を引いていると言うのに、俺はこの男には劣る。

「…アレを止めるのは疲れる。」

 俺よりも強い男がそう言うくらいだ。黒兎の相手はかなり大変なのだろう。それでも恋人なのだと聞いた。今まで一度たりとも長続きしたことの無い兄が、今回は長いのだと。男に手を出している時点で本気さは窺える。

「止めろよ。」

 そう言えばダルそうに歩きだし、激しい乱闘の場へと混ざっていく。突然のルベル総長の登場に更に場が白熱しだしたが俺は傍観から動く気は無い。そのうち兄が止めてくれるだろう。




 不意に感じた殺気に周りに居た男たちを放置してその出所を探す。邪魔をしてくる奴らはすべて持ち前の脚力で地面に転がし、見つけたその男を見て思わず動きを止めてしまった。

「帰るぞ。」

 殺気を発したくせに俺が気付いてからは、だるそうに踵を返しているところが彼らしい。迎えに来たと言うことはどうやら今日のアソビは強制終了らしかった。

「えー、まだ足りないよぉ。」

「体力残しとかないと明日死ぬぞ。」

 顔だけ振り返りニヤリと笑う男に真っ赤になったのは不可抗力である。

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