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「うあーーーーーーー…」
誰もいなくなった部屋のソファーにだらしなく寝転がる俺から出たのは意味もない声。
昨日、夏樹に言いたいことを何一つ言うこともせずただ泣いてストレスを発散した俺はそのまま苦笑した夏樹に抱えられ泣き疲れたような感じで寝てしまった。しがみついていた熱が離れた気がして起きた時には夏樹は仕事があると軽いキスをして出ていってしまい暇になった。
学校?知らん。俺は何もしらないぞ。たとえプライベート用のスマホに着信が20件とメールが74件来ていたとしても知らない。
そう考えているのにかかってくる電話に仕方なく出てやる。勿論、相手は予想通りの人物で。
『……』
「………湊?」
『……………』
「あー、えっと、ごめんなさい?」
『死にてえのか』
「やだなあ、俺がそれを望んでるわけないでしょ。せっかく夏樹とラブラブできるって言うのにサー」
『黙れ』
あらやだ、怒ってらっしゃる。まあ、当然か。教室に戻って何も告げずに早退しますと授業をしていた教師に言い放って帰ったのだから。ついでに言えば今朝から一人で帰ってきたことを夏樹に怒られている。護衛はどうしたと、それはそれは恐ろしかった。あまりのキレっぷりに本気で怯えた俺を見て篤が仲裁に入ったのは致し方ないことだ。
「仕事でね、ちょっと急ぎだったんだよね」
『…怪我は』
「ないない、そんなに怪我することなんか滅多にないんだよー?」
『嘘つけてめえ』
「ホテルの跡取りがそんな口の聞き方するんじゃありませんっ」
『お前だけに決まってんだろ』
「やだー俺だけとか照れるー」
『…はぁ』
呆れたようなため息が聞こえて馬鹿にしすぎたかなとか思う、思うだけで何も変えないけれど。
『もういい。仕事、気をつけろよ』
「おー」
そんな呑気な会話で切れた通話に消化不良に陥るのはこれだけ心配してくれている湊に何も言えないことか。それとも他の原因なのか。なんでもいいが取り敢えず
「脱走路か?」
捕まった後の逃げ道を探さなければならない。が、そもそも脱走できるような状態にはならないだろう。ヘタをしたら鎖に繋がれて飼い殺されるか、もしくは満足するまで輪姦したあと、そのまま殺すか。こればかりは実際の状況に陥らない限り何もできない。かと言って何もしないのも嫌で。
誰かに会いに行くなんて流石にこれ以上大切な人に会って決心を揺るがされたら嫌だ。だからたとえ秋人でも今回ばかりは会うつもりは無い。会ったら絶対に1から100まで吐かされてしまう。それだけは避けたかったから。
昼時を過ぎた緩い時間帯に襲い来る睡魔に従うようにして考えることに疲れた頭を放棄してそっと目を瞑った。