金木犀の香る夜 | ナノ
 5

「晴くん、隈すごいよ?寝てないの?」

「お菓子あるからあげるよー」

「保健室で寝てきちゃえ」

「んーどうしようかな」

机の周りに集まっていた生徒たち(主に女子)が好き勝手言うのに返事をしながら机の上に置かれた大量のお菓子に手を伸ばす。

「美味しい…」

「でしょ?!これうちの新作なんだけどね、人気出ると思うんだ!」

そういう女子は大手のお菓子メーカーに務める生徒で事あるごとにクラス中にお菓子を配っている。今回のもそれの一つだろう。

その時、制服のポケットに入れていたケータイが振動したのに気づく。左側だからもしかしなくても依頼のメールだ。

「ごめんね、仕事のメール入ったから外すわ」

立ち上がり教室を出て人気のないところへ向かう。屋上でいいよな、だるいし。わざわざ席をハズすほどでもないのかもしれないが内容が内容だ。用心に越したことはないだろう。

久々に来た屋上は相変わらず綺麗に掃除が行き届いており、目立つ汚れは見当たらない。申し訳程度に添えられたフェンスは簡単に飛び越えられる物だ。それでも、こんなところに立ち入るのは一部の教師と生徒くらいだ。

まあ、俺は一度鍵を借りた時にそのまま合鍵を作ったのでいつでも来れるけど。この学校でわざわざサボるのは損しかしないし、授業が始まれば静かな時間が続くだけだ。

日当たりのいいところに腰をおろして壁に背中を預ける。そのまま先程のメールを確認すれば、別段今すぐ返さなくても平気そうな内容だった。

後で返そう、と思いそのままぼーっと視線を虚空に向ける。教室に戻ってもうすぐ始まるであろう授業を受ける気などは微塵もなかった。

「お腹すいたな」

結局さっきもらったお菓子は教室においてきてしまった。手元にあるのは二つのケータイだけで、それ以外のものは特にない。

10月にもなれば肌寒くなるのは必然でここでこのまま寝るには少しばかり寒い。それでも、見守るように降り注ぐ日光は睡眠不足の俺にとってはただ眠気を手伝うだけで、次第に力が抜けていく身体にそのまま従うことにした。

風邪引くかな…不健康な生活してるし。でも、それもまた面白くていいかもしれない。死にさえしなければ楽しいことは何かしらあるのだから。

そういえば、夏樹の連絡先もまだ移動していない。後でやらなければ…。







「い、おいこら藤宮!」

「……ん、」

開かない瞼に身を任せたまま生返事をすれば乱暴に体を揺すられる。なんなんだよ、くそ。

「…あ?」

ゆっくりと目を開ければ視界に広がるのは苦笑した担任教師の顔だった。

「疲れてんのはわかるけどな、こんなところで寝るな。せめて保健室に行け」

「それサボりじゃん」

「今と変わらねえだろうが」

…そうかもしれないがそれとこれは別だ。

「お前いつまで経っても戻らないからクラスの連中が慌てまくってたぞ。朝から顔色悪かった、ぶっ倒れてるかも!なんて言われて教師数人で捜索されてんだぞ?」

「は?まじで?」

「マジだ」

どちらかといえば軽い担任の古橋に言われ流石に驚きを隠せなかった。捜索とか、そこまですることではないだろう。割と本気で思う。

「とりあえず、お前一旦教室もどれ。昼休み職員室な」

「えー」

「えー、じゃねえよふざけんな」

苦笑する男に仕方なく頷いてから立ち上がる。

「っ、」

「うおっ」

グラっと傾いた俺を支えたのは古橋だった。

「お前…今すぐ保健室行くぞ」

「ん…あー、よくあることだよ」

絶えず襲い来る目眩に目を瞑りながら唸れば労るように頭を撫でられる。こいつ、手大きいな、羨ましい。

「よくあるって、」

「でも、とりあえず寝かせて欲しい」

睡眠不足なんだ。これにかこつけて寝たって文句はないだろう。体が限界を訴えていることなんかとっくに分かりきっている。それでも学校に来たのは休息を得るためだ。

揺れる視界が落ち着きをみせたところで体を離してもらう。少しふらつくがこの程度なら平気だろう。多分。

「無理してんじゃねえぞ」

「仕事だから仕方ない」

言いながら歩き出した俺の後ろから古橋もついてくるのがわかる。それを確認しながら保健室にたどり着けばすぐにベッドまで案内された。ポケットに入っていたケータイを横にあるテーブルに置いて、そのまま布団に潜り込んで俺は静かに目を閉じた。

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